新・読書日記 2019_066
『鉄条網の世界史』(石弘之・石紀美子、角川ソフィア文庫:2019、1、25)
帯には、
「世界で分断が加速するのはなぜか」
「安価なローテク兵器が人類の冷酷さをあぶりだす」
という文字が。「ローテク兵器」?何のこと?と思いながら読みだす。
著者は同じ「石」という少し珍しい名字。夫婦かと思ったら、何と紀美子さんは「娘さん」だそうだ。お父さんは1940年生まれの元・朝日新聞記者で、娘さんは元・NHK記者というマスコミ家族。でもその後は、二人とも国連や国際関係の仕事をされていたようだ。
ふだん気にも留めない「鉄条網」は、アメリカ西部開拓時代に、牛たちを囲い込むために発明されたものだそうだ。確かに安価で、持ち運び等も手軽でしょう。しかも効果抜群。
しかし、それによって何と「生態系」まで変わってしまったのだという。
そして「動物」を囲い込むものが、次第に「人間」を囲いこんだり、戦争では塹壕の前に張り出して「防御兵器」となったり。
人種の憎悪の「壁」となり、「強制収容所」は「鉄条網」で手軽に作ることが出来るようになってしまった。そして、「ベルリンの壁」、「なげきの壁」...。
そうだ、今トランプのアメリカは、メキシコとの間に「壁」を作っているではないか。「ゲーティッドシティー」というのもあるな。なぜ「壁」で仕切ろうとするんだろう、人間は。「防御」は「安全」のため。その「安全」とは「自分達だけ」というコミュニティー。そのための手段として「鉄条網」が使われる。
究極的には、人間と人間の間に鉄条網なんか使っちゃいけないのではないか?
今、使われている鉄条網は、昔の単純なものよりも効果的な新しいものだという。気付かなかった。
鉄条網がなくなれば、いったん崩れた生態系が元に戻ったという。そこから人間は、何を学ぶのか。
文庫本だけど、大変読み応えのある、大きな内容の一冊です!