新・ことば事情
7153「自まつげ・地まつげ」
ことしの1月31日に書きかけました。当時はまだ「平成」でした。
「メイベリン」の「マツエク」=「マツゲエクステンション」のCMを見ていて引っかかった言葉です。
「『じまつげ』になりすまして」
この中の、
「じまつげ」
の「じ」は、漢字で書くと
「地まつげ」「自マツゲ」
どちらでしょうか?
「自分のまつげ」
という意味なら、
「自まつげ」
でしょうね。
「自毛(じげ)」
という言葉は俗語かもしれませんが、耳にします。『広辞苑』を引いてみたら・・・あれ?「地毛」
で載っているぞ!意味は、
「もとから生えている髪の毛。鬘(かつら)に対していう」
それだそれだ!そうすると「自まつげ」ではなくて、
「地まつげ」
が正しいのか?『現代国語例解辞典』『新明解国語辞典』『デジタル大辞泉』『新潮現代国語辞典』『NHK日本語発音アクセント新辞典』も、
「地毛」
しか見出しが載っていません。
『岩波国語辞典』は「地毛」も「自毛」も見出しにありません。ちなみに『新聞用語集2007年版』や読売新聞社の『読売スタイルブック2017』『共同通信記者ハンドブック第13版』『NHKことばのハンドブック第2版』、そしてこの4月に出たばかりの『朝日新聞用語の手引き・改訂新版』といった「用字用語集」にも、「地毛」「自毛」共に載っていません。
ところが『精選版日本国語大辞典』(2002年)を引くと、何と、
「地毛・自毛」
両方の表記が!(ただし用例は「地毛」のみで、「1913年」の小説からの引用です。)
そして『三省堂国語辞典』は、「地毛」は空見出しで「地髪(ジガミ)を見よ」となっていて、「自毛」が見出しとして載っています!
*「自毛」=自分のかみの毛。(例)自毛植毛
とありました。
そうすると、元々は「地毛」と書いたものが「自毛」に変わってきているのか?
ところが!
さらに衝撃的な記述を見つけました!
ことし(2019年)1月10日に出たばかりで小野正弘主幹編集の最新国語辞典、『三省堂現代新国語辞典』では、
「地毛」
だけを見出しに取っており、その説明文の中に「注意」として、
「『自毛』と書くのは誤り」
と記してあるではないですか!
同じ三省堂の辞書で、しかも『三省堂国語辞典第7版』(2014年1月発行)の編集の中心になっている飯間浩明さんは、この『三省堂現代新国語辞典第6版』(2019年1月発行)の編集者の一人でもあるのです。まさに身を裂かれるような出来事!
「地毛」かあ「自毛」に変わる勢いが強い中で過ぎてきたこの5年で、また揺り戻そうという流れがあるのか?
「じげ」の行方に注目です!