新・ことば事情
7075「刺す予定」
2月27日の「朝日新聞」の夕刊を見ていたら、東京・渋谷区の児童養護施設の施設長の男性(46)が、元入所者の22歳の男に刺されて死亡した事件の記事の見出しが、
「他の職員も刺す予定」
と書かれていたのに、違和感がありました。カギカッコが付いているので、容疑者の発言をそのまま見出しに持って来たのでしょうね。警察発表によるところの容疑者の供述でしょう。しかし普通は、
「他の職員も刺すつもり(だった)」
と書くべきところでしょう。本文を読んでいたら、
「田原容疑者は他の職員も襲うつもりだったと述べているが」
とありました。ここでは「地の文」なので、「予定」ではなく「(襲う)つもり」と書かれています。
他の新聞も見比べてみたところ、
(見出し) (本文)
(産経)「他の職員も刺す予定」 「他の職員も刺す予定だった」と供述していることが
(読売)「他の職員も刺そうと」 「ほかの職員も刺そうと思っていた」と供述している
(毎日)「他職員も刺すつもり」 「できる限り他の職員も刺すつもりだった」と
供述している
(日経)「他職員も刺すつもり」 「他の職員も刺す予定だった」と話している
ということで、「朝日」と「産経」だけ、見出しで、
「刺す予定」
を取っていました。これは、「容疑者が本当に言った」のか、「警察の広報がそう言ってしまった」のかは、ちょっとわかりませんね。でも他の社は、意味を取って、
「刺すつもり」「刺そうと」
という日本語らしい表現に替えています。
中でも「日経新聞」は、見出しでは、
「刺すつもり」
と日本語らしくしていますが、本文の中では、容疑者が言ったとされる、
「刺す予定」
をそのまま使っているという「使い分け」をしている点が、他社と違う点でした。