勇ましい姿、雄々しい姿を指していう、
「ゆうし」
は、漢字で書くと、
「勇姿」か?「雄姿」か?
ということが気になりました。『新聞用語集2007年版』を引いてみると、
「雄姿」
になっていました。しかしジェンダー的に考えて、例えば「女性」に対して「雄姿」を使えるのか?女性には「勇姿」を使うというように使い分けをするのか?という疑問が。
調べてみたら、過去の用語懇談会の記録を見たら、2005年4月の関西地区用語懇談会の「気になる言葉の使用状況のアンケート(20語)」で討議されていて、その際は、
★「優勝争いを演じる宮里藍選手の『雄姿』をテレビで見て、メールを送った」
(雄々しく堂々たる姿)※( )内は『広辞苑』に載っている意味。
というように「女性」に「雄姿」を使う社は
『A(普通に使う)=1社、B(違和感はあるが使う)=12社、C(使わない)=11社』
で、「使う」と「使わない」がほぼ半々。そして1社を除いて「使わない」「違和感がある(が使う)」という結果でした。その際のまとめは、
『「新聞用語集」や各新聞社の用語集では「勇姿」ではなく「雄姿」を使うように定めている。共同通信の「記者ハンドブック」では、人に使う場合は「雄姿」、物などに比ゆ的に使う場合は「富士山の勇姿」「SLの勇姿」のように「勇姿」を使うというふうに、使い分けを指示している。こういう問題が起きるぐらい、「雄々しい女性」が多くなり、女性の社会進出が進んできたということだろう。また、本来は「漢」も「男」を指すので、「巨漢」「悪漢」「大食漢」「痴漢」「好漢」「熱血漢」などの「○漢」は男性にしか使えないはずである。』
ということでした。
それから14年ぶりに、今年(2019年)2月の用語懇談会放送分科会で質問してみました。ついでに、
『「女性」の「英雄」はどうでしょうか?「女の痴漢」「女の悪漢」は使えないですよね?「女性の大食漢」「女性の好漢」はどうでしょうか?』
とも聞いてみました。各社の回答・意見は以下の通りです。
(新聞協会専門委員)入社したときから「雄姿」。「雌(メス)」の字を使った「雌伏三十年」や「雌雄を決する」などの言い回しもあるので「雄」は必ずしも「オス」という意味ではないので、あまり考えなくていいのでは?
(NHK)うちは「雄姿」に決めている。
(幹事)ルールを決めている社は?
(共同通信)共同は「雄姿」「勇姿」の両方をハンドブックに載せて使い分けている。
・「雄姿」=(堂々とした姿、女性にも使う)選手団の雄姿、富士山の雄姿
・「勇姿」=(いさましい姿、人に限定)みこし担ぎの勇姿
実は3年前に出したこの最新の「13版」の編集の際に議論になり、「13版」から「勇姿」を載せた。「堂々とした女性」には「雄姿」も使う。区別は「勇姿」は「人間以外には使わない」ということ。(×「富士山の勇姿」など)
(フジテレビ)女性に「雄姿」を使っても違和感はない。それより「女性の痴漢」という表現がない(使えない)とは知らなかった・・・。
というようなものでした。
その後、イチロー選手の引退を伝えた2019年3月21日の日本テレビ「news zero」では、
「27年の勇姿 イチロー」
というように、
「勇姿」
を使っていました。
(追記)
「2019読書日記036」で書いた(読んだ)『続・横道世之介』(吉田修一、中央公論新社:2019、2、25)の中に、
「勇姿」
が出て来ました。
「彼と同じように枯葉剤の後遺症に苦しんでいる子供たちを、ここ東京で戦う彼の勇姿がどれほど勇気づけるかと思えば、その貢献は絶大で、言ってしまえばタイムなどどうでもいい。」
という文章でした。
また、2月11日のウェブ版「スポーツ報知」のサッカーの記事では、
『【甲府】元DFダニエルさん死去を悼む「勇姿を私たちは忘れません」』
という見出しがありました。ここでも、
「勇姿」
が使われていました。
(2019、3、26)
(2019、3、25)