新・ことば事情
7052「ワープロで書かれた遺書2」
平成ことば事情6852「ワープロで書かれた遺書」の続きです。
これを書いた時に「また用語懇談会で聞いておきますね」と書いて、そのままになっていました。実は2018年6月の用語懇談会放送分科会で聞きました。その結果を。
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「手書きではない遺書」に関して、「ワープロで書かれた遺書」という表現にアナウンサーから疑問が出ました。今やハード(機械)としての「ワープロ(ワードプロセッサー)」は、ほぼ絶滅。「ワープロソフト」を使って「パソコンで書かれた遺書」なのではないかというのです。思えば「筆」が入っていなくても「筆箱」、「下駄」が入っていなくても「下駄箱」、「スロット」しかなくても「パチンコ店」、「金属に字形を刻んだもの」で印刷していなくても「活字」と呼ばれていることや、「ワープロソフトを使っている」ことから考えると、「ワープロで書かれた遺書」でも良いのではないかと思われますが、いかがでしょうか。
実際の放送では、報道デスク判断で「パソコンで書かれた遺書」になりました。ただし、本当に「ワープロ」の機械で書かれていたら、それが大きな特徴となります(脅迫状などの場合)から、「ワープロ」としなくてはならないと思いますが。(読売テレビ・道浦委員)
→(NHK)遺書を書いたのが「パソコン」であると「ウラ」が取れていれば、「パソコンで書かれた」のほうが良いだろう。警察発表が「ワープロで書かれた」で、その「ウラ」が取れないのなら、そのまま「ワープロで書かれた遺書」とするしかない。
(KTV)今回の事件では「パソコンで書かれた遺書」とした。
(共同通信)過去35年のデータベースで検索したところ、「ワープロで書かれた」=10件、「パソコンで書かれた」=0件だった。
(日本テレビ)特にない。
(TBS)「パソコンで書かれた」と言うと「パソコンを持ち上げてペンのように書いたのか?」という印象がある。これまでは「プリントアウトされた」や「パソコンで作成された」というケースが多いと思う。先の事件では「パソコンで書かれた」になっていたが。
(MBS)今回の大阪・堺市の事件は、うちが出稿で、私もニュースで読んだが「パソコンで書かれた遺書」だったと記憶している。
というところで、半年たって年が明けて、さきほど(2019年1月29日)の夜7時のNHKニュースで、製薬会社などの企業に「青酸カリ」が送り付けられてそれに脅迫状が添えられていた事件のニュースで、
「ワープロで文字が打たれ」
と女性アナウンサーが読んでいました。本当に「ワープロ」で打たれたの?また「警察発表」がそうなのかな?いまどき「ワープロで打たれた」のなら「ワープロ」は特定できそう。30数年前の「グリコ森永事件」(1984年=入社した年だ!)のときの「かい人21面相」の脅迫文が、
「パンライター」
というタイプライターで書かれていたことが突き止められましたが、あれは犯人が捕まらなかったなあ・・・。
あのときは「脅迫文」が見つかる度に大変な大騒ぎになって、「劇場型犯罪」と取りざたされたのに、30数年たったら、あまり大きな事件になっていない不思議・・・。
人間て、
「慣れる動物」
ですねえ・・・。