新・ことば事情
7047「アメリカ人か?アメリカ国籍か?」
去年(2018年)2月、兵庫・三田市の女性を、大阪市内で監禁・死体遺棄容疑で捕まった、
「バイラクタル・エフゲニー・バシリエビチ容疑者」
の、
「ナショナリティー」
に関して、読売テレビでは逮捕当時、
「アメリカ国籍の」
と放送していました。なぜ、
「アメリカ人の」
としないのか?報道デスクに聞いてみたところ、
「容疑者は『ウクライナ系』で、10歳ぐらいの時にアメリカに引っ越したという。アメリカで生まれて、ずっとアメリカにいるのなら『アメリカ人』で良いが、引っ越して『アメリカ国籍』を取得したということなので、『アメリカ国籍』とした」
とのことでした。
「○○人」と「○○国籍の男(女)」の使い分けの基準はどうなっているか、在阪各社の放送用語委員の方に、メールで伺ってみました。
<ABC>
「アメリカ国籍」。理由は報道デスクに確認したが、なかなかはっきりしない。警察発表のまま対応しているようだ。
<関西テレビ>
日本出身でアメリカ国籍のノーベル賞受賞者を当時「日本人で何人目」と報道していたような気がします。(「国籍が変わっても、日本人は日本人でしょ」みたいな...)。
3~4代遡れば、結構な割合で他国の血が入っていて「〇〇系△△人」が当たり前のアメリカやヨーロッパと、そういった考え方が薄い日本とでは、一般人の感覚も報道の扱い方も違ってくるのかもしれません。日本でも「韓国系日本人」という考え方が醸成されれば、ありがちな出自に対する「もやもや解消」につながるような気がします。
<MBS>
「アメリカ人」「アメリカ国籍」どちらも使っている。容疑者が「何系のアメリカ人」なのか、まだよくわからないので、決めきれずにいるようだ。
<読売テレビ>
当初「アメリカ人」とするか「アメリカ国籍」とするかについて話した際に、「生まれてずっとアメリカにいるのなら『アメリカ人』で良いが、引っ越して『アメリカ国籍』を取得したということなので、『アメリカ国籍』とした。
なるほど、高校を出るまで「大阪」に住んでいて、「東京」の大学に行って、その後ずっと「東京」に住んでても、
「江戸っ子」「東京人」
とは言わずに、
「東京在住」
というようなものでしょうか?
「『江戸っ子』は、3代住んでいないとダメ」
とか、聞きますよね。
はたまた、「モンゴル出身」で「日本国籍を取得」した後も、単純に、
「日本人力士」
とは呼ばれずに、
「モンゴル出身日本人力士」
と呼ばれたり・・・。逆に、
「日本生まれの日本育ち」
の人は、単なる、
「日本人力士」
ではなく、
「日本出身力士」
と呼ばれているようなものでしょうか?
そこまで「出身」にこだわらなきゃいけないのか?という問題があります。もし、
「その出身地に特有の何か」
がポイントであれば、話は別ですが。たとえば、
「もともと日本人で、現在はアメリカに住んでいる25歳」
の、
「アメリカ国籍を取った日本出身の男」
が、
「日本刀」
で犯罪を犯したとしたら、たとえ「アメリカ国籍」を取っていても、単純に「アメリカ人」とはせずに、
「アメリカ国籍の日本出身の男」
のように、
「日本出身」
がクローズアップされるんでしょうねえ。これって、結構、面倒くさい話ですねえ。
その後、2018年3月7日の日本テレビ「every.」で、あおり運転で、
「ブラジル国籍の男が逮捕されました」
という原稿を読んでいました。
「ブラジル人」ではなく「ブラジル国籍の男」
でした。名前は、
「コスタ・イワブチ・ジャアオ容疑者」
で、短く読むときは、
「コスタ容疑者」
でした。
2018年4月の新聞用語懇談会放送分科会で各社に聞いたところ、
(NHK)ケース・バイ・ケース。このニュースでは「アメリカ人」だった。他のニュースでは「アメリカ国籍」もあった。
(共同通信)決まりはない。今回は「米国籍」でやった。中国・朝鮮系の人は「朝鮮籍」。アメリカは移民が多いので、ケース・バイ・ケース。
という回答でした。
そして、そのバイラクタル被告の初公判が2019年1月15日に開かれ、この際に、読売テレビの報道では、これまでどおり、
「アメリカ国籍の」
で放送しました。NHKは、お昼のニュースも、夜9時前のニュースも、
「アメリカ人の」
で放送していました。(サイドスーパーは「米国人元大学生」)
1月15日の夕刊各紙は、
*「米国籍の」=朝日・毎日・産経・日経
*「米国人の」=読売
でした。