先月、同志社グリーのOB合唱団(DOBS)のコンサートに一緒に出させていただきました。その際に歌った曲に三好達治作詞・多田武彦作曲の「わがふるき日の歌」がありました。この終曲、
「雪はふる」
は、テナーソロを聞かせる、とても素晴らしい曲です。その歌詞で疑問がありました。
「雪はふる」
海にもゆかな
野にゆかな
かへるべもなき身となりぬ
すぎこし方なかへりみそ
わが肩の上に雪はふる
雪はふる
かかるよき日をいつよりか
われの死ぬ日と願ひてし
この「ゆかな」の「な」の意味が、よくわからなかったのです。
辞書を引いてみました。
*『精選版日本国語大辞典』
-
動詞・助動詞の未然形を受けて希望の意を表わす上代語
(イ)自己の行動に関して希望や、その実現の意志を表わす。
*古事記(712)中・歌謡「鳰鳥の 淡海(あふみ)の海に 潜(かづ)きせ那(ナ)わ」
(ロ)他者の行動の実現を希望する。
*続日本紀ー天平十五年(743)五月五日・宣命「教へ賜ひ趣(おもぶ)け賜ひながら受け賜はり持ちて、忘れず失はず有るべき表(しるし)として一二人を収め賜(波奈止那毛・はナとなも)」
(2)文末にあって動詞・助動詞の終止形(ラ変は連体形)を受け、禁止の意を表わす。
*日本書紀(720)武烈即位前・歌謡「水(みな)そそく 鮪(しび)の若子を 漁(あさ)り出(づ)那(ナ)猪の子」
*竹取(9C末-10C初)「龍の首の玉取り得ずは帰り来な」
(3)文末にあって動詞型活用の語の連用形を受け、気安い相手に、ある動作を促す意を表わす。
*滑稽本・浮世風呂(1809-13)前「おめへは捕人(とった)に成(なん)な」
【語誌】
(イ)終助詞とされる「な」には、希望の意のものと禁止の意のものがあるが、このうち、希望の「な」は、上代特有のものである。意味の面では、助動詞「む」とかなり接近したもので、この点は、例えば「万葉集-三六四三」に、「沖辺より船人のぼる呼び寄せていざ告げ遣らむ旅の宿りを あるは云はく、旅の宿りをいざ告げ遣ら奈(ナ)」とあって、「告げ遣らむ」の形に対して「告げ遣らな」の形が異伝としてあったといったことでもうかがわれる。
(ロ)中古に入ると、「む」にその席を譲って、(1)の希望の「な」は用いられなくなる。一方、(2)の禁止の意の「な」は、今日まで用いられてきた。同じく禁止の言い方である「な...そ」とともに訓点資料には見られず、また、「な」は「な...そ」の形により禁止表現よりも直接的できびしいものといわれる。
(ハ)中世以降、禁止表現としては「な」の方がよく用いられたが、連体形を受けるもの、連用形を受けるものなどが現れる。「金毘羅保元-中」の「相構而(あひかまへて)一所へばし落ちぬるな」、「太平記-六」の「懸入る敵に中を破(わら)れな」、「童謡・メーデーごっご<槇本楠郎>」の「おそれな みだれな」など。
*『広辞苑』
(1)活用語の未然形に接続して文を終止させる。
(ア)自分の意志を表す。...しよう。
*万葉集(4)「妹に会はず久しくなりぬ 生きて早(はや)見な」
*万葉集(5)「ことことは死ななと思へど」
(イ)願望。要求・勧誘の意を表す。...したい。...しよう。...してください。
*万葉集(1)「家聞かな告(の)らさね」
*万葉集(17)「道の中国つみ神は旅行くもし知らぬ君をめぐみ給はな」
*万葉集(19)「網取りに取りてなつけな涸れず鳴くがね」
(2)活用語の終止形に接続して、禁止する意を表す。平安時代には主に男性が目下に対して用い、女性は「な...そ」を用いた。
*万葉集(5)「いたづらに吾を散らすな酒に浮べこそ」
*源氏物語(桐壺)「われ亡くなりぬとて口惜しゅう思ひくづほるな」
*浮世床(2)「イヱイヱもう必ずとおかまひなさいますな」。「それを言うな」
(3)活用語の連用形に接続して、命令を表す。...なさい。
*浮世風呂(4)「コレサコレサおてんばどん。マアだまんなよ」「早くしな」
ということで、これは「禁止の『な』」ではなく、『精選版日本国語大辞典』(1)(イ)及び『広辞苑』(1)(ア)(イ)の「行こう」という、
「意思・希望の『な』」
ということで納得しました。
もっとも、この部分は、私のパートである「ベース」は「ハミングばっかり」で、
「歌詞は歌わない」
んですけどね。
(2018、10、18)