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『道浦TIME』

新・読書日記 2018_122

『映画を撮りながら考えたこと』(是枝裕和、ミシマ社:2016、6、1)

ことしの「カンヌ映画祭」で見事「パルムドール」(最高賞=英語だと「ゴールドパーム賞」でしょうか?「金のヤシ賞」)を受賞した是枝裕和監督の『万引き家族』。もちろん、すぐに見ました。是枝作品は、結構見ています。1962年生まれの是枝監督はほぼ同世代だし、テレビ制作会社(テレビマンユニオン)に入ってから映画の世界に移ったという意味では同じテレビマン出身なので、興味もあります。

この本も出てすぐに買ったのですが、何せ分厚い、414ページもありますので、ちょっと読みさしになっていましたが、「読むのは、パルムドールを取った今しかない!」と思ってようやく、この夏休みに読みました。それでも結構、時間がかかった。

「あとがきのようなまえがき」と「あとがき」を含めると12章あります。最初からは読まずに「あとがきのようなまえがき」を読んでから、「第9章 料理人として2011-2016」

を読みました。この本が出た段階で一番新しい監督作品の映画「奇跡」(2011)、「そして父になる」(2013)、「海街diary」(2015)、「海よりもまだ深く」(2016)について書いていました。このうち「そして父になる」と「海街diary」は見たな。

結局、是枝監督は「家族」という「絆」についてを、一つのテーマとして追い続けている感じがします。「誰も知らない」と「そして父になる」と「万引き家族」では、間違いなく「家族とは何か」を描いていると思います。監督自身は、

「僕の映画は『喪失を描いている』と言われますが、僕自身は『遺(のこ)された人』を描いているのだと思っています」(207ページ)

と書いています。その他、

「『インターネットを漂っている人がなぜ右翼というかナショナリストになるのか?』。この問いを考えていくと、人とつながっている実感がない人がネットへこぼれ落ちたときに、彼らを回収するいちばんわかりやすい唯一の価値観が『国家』というものでしかなかったのだということに、気づかされるのです。(中略)共同体や家族に代わる魅力的なもの・場所・価値観(それを「ホーム」と言ってもいいかもしれませんが)を提示できないかぎり、彼らは国家という幻想に次々と回収されていくでしょう。」(328~329ページ)

また、「そして父になる」でスペインのサンセバスティアン国際映画祭に行った際に、記者に「小津安二郎の作品に似ている」と言われたそうです。欧州ではよく言われるようですが理由を問うと、

「あなたの映画はこの映画にかぎらず、時間が回っている。直線的ではなく、一周回ってちょっと違うところに着地している。それが小津の映画に似ている」

というのです。

「確かに僕は映画の時間をそのように捉えているし、最初とは違うところに着地したいと思っています。その理由は、春夏秋冬という四季があって、時間は巡っていくものだという感覚が日本人にあるからなのかなと思い、『こっちの人には時間が巡るという感覚はないのでしょうか?』と尋ねたら、『ない。時間は直線的に流れていくものだ』と返されました。だから、僕の作品が小津の作品に似ているとしたら、方法論やテーマではなく時間感覚なのではないかと。日本人のなかにある円を描く時間感覚、人生も含めて『巡る』という感覚で時間を捉えていくことに、西欧の人は共通点を見出すのではないかと思うのです。」(369~370ページ)

これって、中島みゆきの「時代」ですよね、まさに「まわる、まわるよ、時代はまわる」です!

と、本を読んでから感想を書くまでの間の9月15日、なんと樹木希林さんが亡くなりました。75歳。「全身がん」とは聞いていたけれども、こんなに急に亡くなるとは思わなかった。是枝作品にはなくてはならない俳優・女優さんでした。追悼の意味も込めて、樹木希林さんについて是枝監督が書いている部分を抜粋します。ちょっと長いけど。樹木希林さんが「歩いても歩いても」という映画に出た際の話。この映画のタイトルは、いしだあゆみさんが歌った「ブルーライト・ヨコハマ」のサビの部分なのだそうです。そうだったのか!あの曲は、小学校1年か2年生の時に流行ってて、よく口ずさんだなあ。知らなかった。見てみたいな。

「母親役は、脚本執筆段階から樹木希林さんに頼もうと考えていたので、第一稿からアテ書きしています。希林さんはこの母親役を本当に深く理解してくれて、いろいろなアイデアを出してくれました。たとえば、入れ歯をお風呂場で外すシーン。『私、部分入れ歯なんだけど、歯の心配をするシーンが昼間にあるから、私が入れ歯だと息子の歯の心配をすることに説得力が出るでしょ。だから外そうと思うんだけど』と希林さんから提案していただいて実現したシーンです。長男のお墓参りに出かける前に薄く口紅を塗るのも希林さんのアイデアです。世間ではアドリブが多い方のように思われるかもしれませんが、芝居については非常に緻密に計算をされて現場に臨まれる方で、撮影初日に『台詞は一字一句変えずにやります、余計なことはいたしません』と言ってくださり、アイデアがあるときには必ず『こうしてみたいんだけど』と僕のところに来て『いらなかったらカットしていいからね』と言ってくれました。」(195~196ページ)

合掌。。。

とここまで書いたら、9月23日(現地時間。日本時間の24日)、是枝監督がスペインの「第66回サンセバスチャン映画祭」で「生涯功労賞」に当たる「ドノスティア賞」(「ドノスティア」はバスク語で「サンセバスチャン」の意味)を、アジア人で初めて受賞したというニュースが入って来ました!これまでこの映画祭で「観客賞」を2度受賞するなどの功績が評価されたそうです。おめでとうございます!!希林さんも喜んでいるよ、きっと!

壇上では過去の作品の映像と共に、樹木希林さんの姿も映し出され、是枝監督は「10年間、パートナーとして映画を作ってきたことが蘇ります」と涙ぐむ場面もあったそうです。(「サンスポ・ドットコム」による)

サンセバスチャンは、私も3年前に1度だけ行ったけど、その日は雨でした。結構、雨が多い所らしいけど、きのうは雨だったのかな?それは記事には書かれていなかった。

改めて、合掌。。。。。。


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(2018、9、3読了)

2018年9月25日 17:33 | コメント (0)