新・ことば事情
6913「ハラル食」
8月6日の『産経新聞』夕刊にこんな見出しが(黒川信雄記者の署名記事)。
「多様な国籍 訪日客呼び込め 日本料理でも『ハラル食』」
この、
「ハラル食」
についての説明は、
「ハラル(イスラムの戒律)にのっとった食材、調理方法でつくった『ハラル食』」
とありました。
ベジタリアンが増えた・・・というか、外国人の観光客や留学生などが増えたことによって、「ベジタリアン」や「ビーガン(ヴィーガン=完全菜食主義者)」(平成ことば事情6901「ヴィーガン、ビーガン」参照)、そして「イスラム教徒」も日本を訪れるようになりました。記事にも
「昨年1年間に大阪府を訪れた訪日外国人客は過去最多の約1111万人に上った」
とあります。(「訪れた」と「訪日外国人客」は「訪」が重複しているな。)
その要因としては、「円安」と「アジア諸国の経済成長」が挙げられると思いますが、それに伴って「観光立国」を目指すとする「日本」も、
「訪日外国人客の方の、食事の習慣の要求に応える必要」
が出て来たんですね。
この、「ハラル」という言葉ですが、
「ハラール」
と書かれることもあります。日本新聞協会で出している『新聞用語集2007年版』の「外来語の書き方」には載っていません。読売新聞社の『読売スタイルブック2017』の「カタカナ語言い換え・表記例」にも載っていません。日本語の一般の文章に出て来る言葉としては、「かなり新しい部類」に所属するのでしょう。
新聞用語懇談会の席で「新聞や放送ではどちらを使うべきか?」という問題になったことが、過去に(数は少ないですが)あります。
*「ハラル」「ハラール」の表記について=2014年11月(熊本)
アラビア語でイスラム法に則った「合法的なもの」「許されたもの」を意味する「Halal」の表記は「ハラル」「ハラール」のどちらを使っているか。(毎日放送)
<参考>『新聞用語集2007年版』関連語句「外来語の書き方」
アラー【Allah】 イスラム【Islam】
→(熊本日日新聞)原稿で「ハラール食」の記事が増えた。「日本アジアハラール協会」などは「ハラール」と音引きだったので、うちでは半年前に「ハラール」に統一した。朝日新聞とNHKも、見ていると「ハラール」が多いと思うが・・・。
(朝日新聞)最近は「ハラール」のほうが多い。宗教用語はどちらか一方に決めにくい。現在は「様子見」状態。
(日経新聞)中東の特派員経験の記者に聞いて「ハラール」としている。
(読売新聞)静観している。最近は「ハラール」が多い。
(共同通信)「ハラール」の中にも、基準が厳しいものから緩いものまでいろいろある。現在は「様子見」状態。
※2014年11月24日放送の読売テレビ「かんさい情報ネットten.」の、京都に外国人観光客が増えているという特集で、マレーシアからの観光客が「鶏肉のケバブ」を食べているというシーンで、「ハラール」と「音引き」の表記・発音で出て来ていました。
その後、今年(2018年)5月に開かれた「関西地区用語懇談会」で「福井新聞」の委員からも、この「ハラル?ハラール」の表記の問題が提起されましたが、時間の関係で議論はカットされてしまいました。
「産経新聞」は、2014年の会議での発言はありませんでしたが、現在は「-」(音引き)なしの「ハラル」を使っているんですね。
グーグル検索では(8月9日)
「ハラル」 =202万0000件
「ハラール」= 87万6000件
でした。その中で「ハラル」のトップに出て来たのは、
「一般社団法人 ハラル・ジャパン協会」
でした。団体の名称は「ハラル」なんですね。
そのサイトには、
「ハラル(ハラール)について」
と併記した後に、
「ハラルの意味」
と言葉の説明があります。引用しましょう。
『イスラムの教えで「許されている」という意味のアラビア語がハラール(ハラル)【アラビア語: حلال Halāl 】です。反対に「禁じられている」と言う意味の言葉が「ハラーム(ハラム)」です。ハラームをノンハラール(ノンハラル)と言う人もいます。
そうだったのか!
「ハラル(ハラール)」=許されている
「ハラーム(ハラム)」=禁じられている
だったのか!
『ハラルについて、多くの方が「ハラル認証」のイメージと結びついているようですが、しかし実際はイコールのものではありません。ハラルビジネスをする(イスラム教徒向けの商品を供給する、サービスを提供する)際にはこの点の理解が大きなポイントになります。』
なるほど。
そして、「ハラム(禁止されている)の食品としては、
・「豚」=その派生物を含めて全て。
・豚以外の肉についても「イスラムの教えに則った方法でと畜・加工処理されなかった肉」
※肉についてハラルを意識するムスリムの割合は非常に高い。
・「酒」=イスラムの教えでは、酒を飲み酔ってしまった時の害が指摘されている。
しかし、工業洗浄用アルコールや、手指の消毒用のアルコールを避ける人の割合は下がる。
・発酵過程で自然にアルコールが醸造される食品(しょうゆや味噌など)に関しては、一定の濃度を規制すべきという考えもある一方で、「問題に感じない人」も少なくない。
・ハラル(許されている)なものでも、ハラム(禁止されている)なものに混ざったり接触したりすると、ハラム(禁止されている)とみなされてしまうことにも注意が必要=ムスリムにとっては「けがれる」「コンタミネーション(汚染)」の感覚に近い。
「ハラル(許されている)」食品の一例としては、
「野菜、果物、魚、卵、牛乳、イスラムの方式にしたがって"と畜"された動物の食肉、あるいはその派生物」
だそうです。
「産経新聞」の記事は、
「日本食でも『ハラル食』に対応する店が出て来た」
ということが「ニュース」なわけですが、10年後には、どこの店でも普通に「ハラル食」対応をしているかもしれませんね。