新・ことば事情
6896「デンデンムシとかたつむり」
(2018年6月21日に書き始めました)
先日「ミヤネ屋」で、気象予報士の蓬莱大介さんが、梅雨の時期を象徴する「虫」として紹介したのは、
「デンデンムシ・かたつむり、どちらの呼び方をしますか?」
という話題でした。
「ウェザーニューズ」の会員7708人に対する調査では、
若い人が「かたつむり」で、年配の世代が「デンデンムシ」
という結果が出たそうです。
「10代から30代」は「かたつむり」が圧倒的ですが、「40代から50代」は、ほぼ拮抗、「60代以上」は「デンデンムシ」のほうが多いということなんだそうです。
世代によってこんな傾向があるとは知りませんでした。若い人の方が「デンデンムシ」って言うと思ってました。
そして全体としては、
「かたつむり」 =58%
「デンデンムシ」=40%
「マイマイ」 = 1%
「その他」 = 1%
で、その割合は、
「かたつむり:デンデンムシ=6:4」
だったそうです。拮抗していますね。
「カタツムリ」の呼び方と言うと、やはりあれでしょう、
「柳田國男の『蝸牛考』」
「方言集圏論」の基になった調査結果ですね。たしかあの本によると、「かたつむり」の呼び名のバリエーションは、。もともと首都・京都(当時)で使われていた呼び方が、まるで池に石を投げ入れた時の「波紋」のように、全国に「同心円状に広がる」ので、京都からの距離が同じところには、東西で同じ言葉が伝わっており、京都から遠い所ほど、昔の京都での呼び方が残っていると。それが「方言集圏論」でした。
あの本、たしか本棚にあったはず・・・と捜し出してきました。
「昭和17年(1942年)10月」に書かれたものだったんですね!まさに戦時中に、こんなことを調べていたのか!
柴田武先生の「解説」を読むと、やはりこう書かれていました。
「『蝸牛考』は『方言集圏論』を初めて提唱した本である。また、日本人による言語地理学(方言地理学)の最初の論文でもある。柳田國男は、蝸牛、すなわち『かたつむり』の方言が、東北地方の北部と九州の西部でナメクジであり、同じく東北と九州でツブリであり、関東や四国でカタツムリ、中部や中国などでマイマイ、そしてデデムシは主として近畿地方というように、京都を中心に同心円状に分布することを発見し、これによって、蝸牛を表すことばが歴史的に同心円の外側から内側に向けて順次変化してきたと推定した。」
そして、中を読むと、
「デンデンムシ」
の語源は、
「出ん出ん虫」
だったのですね。つまりあの、
「殻からで出ろ、出て来い」
という、まさに童謡の、
「♪デンデンムシムシ カタツムリ
お前の目玉は どこにある
角出せ 槍出せ 目玉出せ」
のままだったんだ!
『蝸牛考』の最後の方に、柳田國男はこう記していました。
「私たちの利用した方言集には不満足なものが多く、しかも調査地は甚だ限られている。是以上に全く想像しなかった新しい事実が現れて来ぬとは言われず、また援用の当の得ぬものが若干はありそうである。そういう資料のやや完備した時代に、果して私の仮定はどうなって残るであろうか。いかに訂正せられまたどれだけまで是認せられるか。それを考えてみることがいよいよ未来の文化に対する関心を深くする。」(186~187ページ)
ということで、これが書かれてから76年、「ウェザーニューズ」さんの調査によって、
「地域差」ではなく「年代差」として、関東の「かたつむり」が、近畿の「デンデンムシ」を駆逐しようとしていることがわかりましたよ、柳田先生!