新・ことば事情
6891「歯向かう?刃向かう?」
日本ボクシング連盟の終身会長・山根明氏に対して、333人もの会員が「告発状」を出すという出来事が起こりました。7月31日に「情報ライブミヤネ屋」でも取り上げました。その際に、山根会長の「絶対的権力」に対して、
「誰も『ハムカエナイ』」
という文章が出て来て、テロップでこれを漢字で「ミヤネ屋」では、
「歯向かえない」
としました。一応『共同通信記者ハンドブック』を見たら、
「歯向かう」
しか載っていなかったのです。
しかし、放送後に先輩のHアナウンサーが、こう話しかけてきました。
「『はむかう』が『歯向かう』だと、何か違和感があるんだよねえ・・・。『NHK日本語発音アクセント新辞典』では『刃向かう』しか載ってないんだよねえ。『広辞苑』は、両方載ってるみたいなんだけど」
そこで私は、
「『ミヤネ屋』テロップチェックの時に、『共同通信記者ハンドブック』で『表記統一』で『歯向かう』と書いてあったのでそうしたんですけど、ちょっと私も違和感はありましたね。読売新聞社の『読売スタイルブック2017』では『歯向かう・刃向かう』の順番で、両方載せてますけどね。」
と答えると、
「まあ『歯』で咬みついて向かうんだったら『歯向かう』だし、『刃物』で立ち向かうと『刃向かう』だから、両方あるよねえ」
という話になりました。NHKは、表記の基準を定めた『NHK表記辞典』には、
「刃向かう」
しか載せていないので、それに従ったのでしょう。
また「共同通信」は「歯向かう」に「統一」と、立場が分かれています。
両社とも、日本新聞協会の「新聞用語懇談会」に加盟していますが、こういう風に意見が対立してお互いに譲れない表記に関しては、新聞協会の『新聞用語集』では、
「載せない」
という判断がされることがありますが、案の定、この「歯向かう・刃向かう」は『新聞用語集2007年版』には載っていませんでした。