新・ことば事情
6789「女人禁制2」
「平成ことば事情6786女人禁制」では「女人禁制」そのものについて論じましたが、ここにきて、
「読み方」
も、話題に上って来ました。
というのは、視聴者の方から
「『禁制』は『キンセイ』と濁らない。なぜ、濁って『キンゼイ』と読むのか?」
という質問・ご意見が、読売テレビの視聴者センターに数多く寄せられているというのです。それを知って、私は別の意味で驚いています。というのも私は、
「ニョニンキンセイ」
と濁らずに読むと、モノを良く知った視聴者の方から、
「こんな読み方も知らんのか!勉強不足だ。これは『キンゼイ』と濁って読むのだ!」
というお叱りの指摘がたくさん来ると思っていたのです。そこで、あえてスーパーはもとより、パネルにまで「ルビ」まで振って、
「キンゼイ」
と濁って読むようにしていたのです。
「女人禁制」という4文字の熟語としては、「宗教用語」的には、
「『キンゼイ』と濁る」
のです。
『NHK日本語発音アクセント新辞典』でも、アクセントの種類は2種類載っていますが、読み方は、
「キンゼイ」
と「濁るもの」しか載っていません。
ただ、「女人」を外した「禁制」という単語に関しては、「禁制品」のように、
「キンセイ」
と濁りません。その意味では、「女人禁制」の「対語」として出て来る、
「男子禁制」
に関しては、後から作られた「造語・新語」であり、伝統も宗教的背景もないと思われますので、「キンゼイ」と濁る必要はないと判断し、
「ダンシキンセイ」
と濁らないようにして、区別しています。
「女人」の本当の「対語」なら「男人」か「人」だと思います。逆に「男子禁制」を基にした「対語」を考えるなら「女人禁制」ではなく、
「女子禁制」
となるのではないでしょうか?この言葉なら、伝統もありませんし、
「キンセイ」
と濁らずに読むほうが良いと思います。
『精選版日本国語大事典』で「禁制」を引くと、
「きんせい(古くは「きんぜい」)」
とあるので、やはり「古く」は(=伝統のあるものの中には)、
「キンゼイ」
と「濁るもの」があり、「女人禁制」(という言葉)は「伝統がある」という判断なのでしょう。
その項目の用例では「浄瑠璃・用明天皇職人鑑(三)」(1705年)の、
「けふの供養には、女の参詣きんぜいとこそ候つれ」
という、「濁る」形の、
「きんぜい」
が載っています。浄瑠璃ですから、そう「濁って発音」したのでしょう。
そして、『精選版日本国語大事典』の「女人禁制」の見出しは「きんせい」と濁っていないのですが、
(「にょにんきんぜい」とも)
と「濁ったもの」も記してあるし、用例の「謡曲・道成寺」は、
「1516年頃」
という「歴史があるもの」を挙げていました。