新・ことば事情
6703「生き様」
2月9日に開かれた新聞用語懇談会放送分科会でMBSの委員から質問が出ました。
『「死にざま」の転用で「生き様」という表現が多くみられるが、各社はこの言葉をどのように扱っているのか?』
というのです。というのも、
『最近は主な辞書でも「生き様」は記載されており、これだけ日常で使われると当然のことかとは思う。しかし、
「生き方」「生きよう」
などと言い換えが可能ではないかという意見と、日常用語で違和感がないのであれば放送でも可であろうという意見がある。弊社用語ハンドブック(2009年改訂版)では、
『人の過ごしてきたひどい生き方のこと。他人に使うと失礼になる。』
とあり、『広辞苑』には「ぶざまな生き方」とあり、番組で使われたような褒めことばとしてはそぐわないと考える。現在、ハンドブックの改訂作業中なので、各局の実情を聞いて参考にさせていただきたい」
と言うことだそうです。ちなみに、先日番組で、
「星野仙一の生きざま」
とスーパーしてしまった。』
これに対する各局からの回答は、以下の通りです。
(NHK)特に「使ってはいけない」とはしていない。用語委員会でも専門の先生方から「違和感がある」と言われることがあるので、乱用はしない。しかし、定着しつつある言葉。「生き方」に置き換えられるときは置き換えるが、そのまま「生きざま」としたほうが良い場合もある。
(日本テレビ)原稿検索では、「NN24」の原稿で「己の生きさまを貫いて」「憧れの女性の生きざま」などと出て来た。アナウンス部で聞いたら「若手アナウンサーには『他人に使うのは注意するように』と言っている」とのことだった。
(テレビ朝日)ニュース部門、アナウンサーに聞いたところ、特にルール化はしていない。議論にも上っていないとのこと。
(TBS)「使ってはいけない」言葉の中には入っていない。本人が言うのは良いが、ナレーションなどで他人に使うのは、違和感があるという声が多かった。「人生」「生き方」に置き換えるべきだろう。
(フジテレビ)原稿で出て来るのは、インタビューか「カギカッコ」の中の引用文だった。映画の内容説明の原稿や、スポーツの企画モノにはたくさん出て来た。ダメだとも言い切れないが、「地の文」にはあまり出て来ない。
(テレビ東京)原稿検索では20件出て来た。ほとんどは「引用」で「生きざまを見せていた」というものも。
(ABC)決まりはない。何人かに聞いたところ、日常語としては違和感なし。
(KTV)報道の原稿では、結構出てくる。「死にざま」はほとんど出て来ない。弊社では、「生きざまJAPAN」という番組もあった(もう放送は終わったが。)一応「使ってはいけない」とはしているが、若手が使ったら「本当は、こうだよ」と教える。
(TVO)ニュース原稿ではゼロ。フリートークでは出て来るが「生き方」「人生」に、できるだけ言い換える。自らも「生きざま」は使わない。
(時事通信)規定はない。1年に数件、出てくる。直接引用か、スポーツの軟らかいネタで出て来る。
(共同通信)昔から「使っていいのか?」という質問が来る。2014年の加盟社の校閲部長会議で、「許容している」と答えた。『明鏡国語辞典』でも語釈で採用している。星野仙一さんのように「型破りな人」の場合は「生きざま」が使われる傾向にある。
私も調べたことを発表しました。
(ytv)出て来ても、そのまま放送することが多い。MBSさんは「『広辞苑』には『ぶざまな生き方』とあり」と書かれていますが、調べて見たところ、たしかに『広辞苑』の「第6版」にはそう書かれていたが、最新の「第7版」では、
「ぶざまな」→「独自の」
に代わって「マイナス評価」がなくなっていた。また、『新明解国語辞典』は、編集主幹の山田忠雄さんがご存命の「第4版」(1992年)では、
「『ざま』は『様』の連濁現象によるもので、『ざまを見ろ』の『ざま』とは意味が違い、悪い寓意は全く無い。一部の人が上記の理由でこの話を嫌がるのは、全く謂(いわ)れが無い」
と記しているほか、「第7版」(2012年)でも同様に記述になっている。また「死にざま」も、
「この語自体には善悪の評価は全くない。善悪の観点が分かれるとしたら、その人が往生したか醜い死に方をしたかの相違があるだけである」
と記されている。
という発表でした。「生き様」は、各社「許容」の方向のようですね。