580億円が"盗まれた"仮想通貨。これまで「仮想通貨」に興味の無かった人たちも、
「そんなことがあるのか!」
と注目しました。その中で出て来た
「コインチェック」の扱っていた仮想通貨の名前、
「NEM(ネム)」
のアクセントが、「頭高アクセント」なのか?「平板アクセント」なのか?で、みんな悩んでいました。両方のアクセントが、放送で聞かれたからです。「す・またん」の辛坊治郎先輩からも「アクセントはどっちなの?」と質問が来ました。私は、問題なく、
「ネ\ム」
と「頭高アクセント」なので、迷いはなかったのですが。
「ミヤネ屋」に出演している林マオアナウンサーを通じて、読売テレビ・アナウンス部での意見を聞いてもらいました。すると、
「やはり、皆さん、仮想通貨のユーザーじゃないから『ネ\ム』と『頭高アクセント』で呼びたくなるけど、使い慣れてる人は『ネ/ム』と『平板アクセント』なのかなぁ・・と。しかし、『平板アクセント』は、やはり『関西人』の場合は、眠たいときの『ネ/ム』に聞こえる・・という話で終わってしまいました・・(笑)難しいですね。でも、もし原稿に出てきたら、『ネ\ム』と1回目は読んで、様子をみると思います・・・と森若さんは仰ってました!以上です。」
というメールをもらいました。そこで、こんなメールを返しました。
「林さん、早速ありがとう!そうですね。『ネム』でアクセント辞典に載っているのは、
『ねむの木』の『合歓(ねむ)』で、これは『頭高アクセント』の
『ネ\ム』
ですね。もしかしたら、それと区別するために、きょうの日本テレビお昼の『ストレイトニュース』の矢島アナウンサーは、
『ネ/ム』
と『平板アクセント』で読んだのかも。しかし『2音節』の単語は『頭高アクセント』でいいんじゃないかな。2音節の単語で『○ム』と言うものをピックアップして、アクセントを書き出してみました。<★は名詞。赤が「平板アクセント」>
「ア\ム(編む)」「★イ\ム(医務)」「★ウ\ム(有無)」「★エ\ム(M)」
「カ\ム(噛む)」「★キ\ム(金)」「ク\ム(組む)」「★ケ\ム(煙・に巻く)」「コ\ム(混む)」
「★サ\ム(外国人名)」「★シム=SIMカード(シ/ム)、染む(シ/ム)、★私務(シ\ム)」「ス\ム(住む、済む、澄む)」
「ツム=積む・摘む(ツ/ム)、詰む(ツ\ム)」「★ト\ム(外国人名)」
「★ナ\ム(南無)」「★ネ\ム(合歓)」「ノ\ム(飲む)」
「★ハ\ム(食物)」「フ/ム(踏む)」
「モ/ム(揉む)」
「ヤ/ム(止む)」「ヨ\ム(読む)」
「★ラ\ム(酒)」「★リ\ム(自転車)」「レ\ム(REM睡眠)」「★ロ\ム・ロ/ム(ROM=読み出し専用メモリー)」
「★ワ\ム(音楽グループ名)」
といった感じですね」
その後、各局のアナウンサーや元アナウンサーの皆さんに、個人的なご意見と現状について伺ってみました。
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『問題の「コインチェック」の扱っていた仮想通貨「NEM(ネム)」のアクセントですが、
(1)「ネ\ム」(頭高アクセント)
(2)「ネ/ム」(平板アクセント)
(3)その他
の、どれで読んでらっしゃいますか?
ちなみに、おととい(1月31日)の昼ニュースなどを見ていたら、
*NHK・TBS・テレビ朝日・フジテレビ=(1)頭高「ネ\ム」
*日テレ=(2)平板「ネ/ム」
でした。
また、この日の日テレ「スッキリ」での女性アナウンサーは(1)頭高「ネ\ム」でした。
で、ツイッターのフォロワーからの情報によると、MBS『ちちんぷいぷい』でこの話題を、メインのフリーアナウンサーに対して、MBSの女性アナウンサーが、
「NHKだけ(2)平板『ネ/ム』だった」
という話をしていたということなのですが、どうなんでしょうか?
もちろん局によって決めているというより、各アナウンサーによって、アクセントは違うのだと思いますが。
皆さまのご意見を、お待ちしています!よろしくお願いします。』
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その結果、以下のようなお返事が届きました。
【在京】
(日本テレビ)当初、経済部とも話し合い「NEM」利用者が(2)平板「ネ/ム」を使っているので、(2)平板にしたが、浸透せず、結局(1)頭高「ネ\ム」の報道が多いので(1)頭高に変更・統一した。
(TBS)弊社では「アクセントの統一」はしていないが、(1)頭高「ネ\ム」で読んでいる。(2)平板「ネ/ム」で読んでいる人を聞いたことがない。特に「こうだから(1)頭高」という根拠があったわけではないが、全員が(1)「ネ\ム」で読んでいた。
(フジテレビ)このニュースを読んでいないが、読むとしたら(1)頭高「ネ\ム」
(NHK)(1)頭高「ネ\ム」。通貨の「2拍語」は「頭高」が多いので。
【在阪】
(MBS)(1)頭高「ネ\ム」で放送している。
(ABC)(1)頭高「ネ\ム」で放送している。「頭高アクセントで読め!」と指示が出たわけではないが、自然にこのアクセントで落ち着いた。(2)平板「ネ/ム」は、関西弁の「眠たい」の意味の「ネ/ム」と混同するからかもしれない・・・。
(関西テレビ)統一していないが、みんな(2)平板「ネ/ム」で読んでいる。
(ytv)決めていない。(1)頭高「ネ\ム」5人、(2)平板「ネ/ム」1人。
(1)「頭高」の人の意見
・「ネ\ム」の頭高が自然かと思う。最近は、こういう新しく出てきた言葉を何でもかんでも平板で読む傾向が強い気がして抵抗を感じる。
・「ネム財団」となると、コンパウンドすると思うが、単体は「頭高」で読む。
・平板化となるほどまでは、まだ浸透していない気がする。ツイッター・ラインなどが、浸透してから平板化したような気がする。
(2)「平板」の人の理由は次の3点。
①まだ一般には認知されていない新出の用語、アクセント未確定で耳馴れない今の時期は、短い音節で、かつ、あまりに不自然でなければ、敢えてアクセントを付けないで表現している。ITやネット用語(たとえば「ウェブ」など)と似た扱い。「仮想通貨」という、実体のなさも、平板アクセントに似つかわしい気がする。
②静岡県出身者として「ねむ」といえば、すなわち宮城まり子さんの「ねむの木学園」が強くイメージされる言葉。「ねむ」のアクセントは頭高なので、それとの区別を付けたい気持ちで平板を選択する。ほかにも全国で「合歓(ねむ)の郷」とか「ねむの丘」が多く、区別したい人は存外多いのでは?
③「ネム」を、自然な日本語感覚で読むと「頭高アクセント」になると思うが、今回のことばは本来的に「NEM」と表記される もので特殊。日本語の原則に囚われない言葉として、敢えて平板アクセントを選択したくなる。
~とはいうものの、③で言ったように、自然な日本語感覚で言えば(1)「頭高」なので、この仮想通貨がかなり主流になり、日常頻出する言葉になれば、(1)「頭高」で表現することになるかもしれない。いずれにしても、私の中では、今のところ日常の生活実感からは距離のある特殊なことばとして、この「NEM」を扱っている、ということです
【地方局】
(テレビ金沢)原稿ではまだ出て来ていないが(2)平板「ネ/ム」のほうが根拠がありそう。
①平板にする根拠
・「合歓」という同音異義語があるので、これと区別する。
・ネット関連の短い業界語は平板の傾向がある。「ネム」も平板にしておくとよい。
(例「ネット」「ブログ」「チャット」「ライン」「メール」)
②頭高にする根拠
・平板にすると、動詞のように聞こえてしまう。
・平板にすると「眠(ねむ)い」の意味を連想してしまう
・文脈上「合歓」と混同する場面が無い。
(中京テレビ)
ローカルでは「仮想通貨」の話題を読むことはなさそう。私は(1)「ネ\ム」でいく。これを「現地読み」と言うのかどうかわからないが、多分、外国の方は(1)「頭高」ではないかと思う。
というような状況でした。
(2018、2、12)