新・ことば事情
6671「文楽の言葉」
1月21日、大阪・日本橋(ニッポンバシ)の「国立文楽劇場」で行われている、
「初春文楽公演」
を見て来ました。館内は8割ほどの入り。まずまず、席は埋まっています。「初春」ということで着物の女性がものすごく多かったのですが、「着付け教室の新年会」として観劇に団体さんが来られていたということで、納得。地元・大阪に住みながら、恥ずかしながら、「国立文楽劇場」に行ったのは初めて。「人形浄瑠璃」は、淡路島で見たことはありましたが、「文楽」の公演を観るのも初めてでした。それで今回は、
「八代目 竹本綱太夫 五十回忌追善」
「六代目 竹本織太夫 襲名披露」
ということで、「八代目 竹本綱太夫」の息子で、「六代目 竹本織太夫」の師匠でもある
「豊竹咲太夫」
さんが「口上」を披露しました。演目は、
・「花競四季寿」(はなくらべ しきのことぶき)
・「平家女護島」(へいけにょごがしま)
・「八代目 竹本綱太夫五十回忌追善・六代目 竹本織太夫襲名披露 口上」
・「摂州合邦辻」(せっしゅうがっぽうがつじ)
でした。それを観て、言葉のことなどで気付いたことを、メモしておきます。
*「七百年」=「シチヒャクネン」と。「ナナヒャクネン」ではなく。
*「四人」=「ヨニン」。「ヨッタリ」ではなく。
*「平家女護島」=音声ガイドでは「ニョ\ゴガシマ」と「頭高アクセント」。豊竹咲太夫は「ニョ/ゴガ\シマ」と「中高アクセント」。
*「平家女護島」は歌舞伎では「俊寛」。平清盛に対する「謀反を企てた」として、鬼界ケ島に「島流し」になっている。この「謀反を企てた」というのは、現代で言うと「共謀罪」に当たる?
*豊竹咲太夫さんは「四代目 竹本織大夫」=「ヨダイメ」と。
*「合三味線」(アイジャミセン)。「シャミセン」が濁って「ジャミセン」に。
*八代目・竹本綱太夫は「復曲」「復活」に尽力。「復曲」というのは初めて見た。『広辞苑』『精選版日本国語大辞典』にも載っていない。
*今回、豊竹咲太夫さんが、文楽では珍しい「五十回忌追善公演」を企画したのは、その昔「十七世・中村勘三郎」が、その父「中村歌六」の「五十回忌追善公演」を行ったのを見て、「私もやりたい」と考えていたとのこと。調べたら「三世・中村歌六 五十回忌追善五月大歌舞伎」は「1970年5月」。今から48年前か。八代目・竹本綱太夫が亡くなって2年後か。
*「豊竹咲甫太夫(とよたけ・さきほだゆう)」改め「六代目・竹本織太夫」の家は「鶴澤(ツルザワ)」。しかし織太夫は「ツルサワ」と濁らず。音声ガイドは「ツルザワ」
と濁った。
<「摂州合邦辻」>
*「逮夜」
*「逆縁」=子が、親より先に死ぬこと。
*「弔いの百万遍」=「百万遍」は、京都大学近くの地名だが、ここでは「念仏」の意味では?→「百万遍念仏」の略のようです。
*「玉手御前」とその義理の息子「俊徳丸」の「不倫」=武家のご法度。しかし共に20代前半という年齢。玉手御前の母のセリフが、「二十(はたち)そこそこの色盛り」。
*「可哀いや」=可哀想
*「東西~」=Attention Please
*「烏羽玉」(ウバタマ)=文字通り「カラスの羽のように黒い」。
*「太夫・合三味線」のコンビが「3組」登場。1組目から2組目へ、どんでん返しで交代するところは、
「いとしんーーーーー」
と「ん」(口はつむっているが「N」に聞こえる)を伸ばしたままで2組目の「豊竹咲太夫」に交代し、
「しんたる夜の道を」
とつながる。つまり、
「いと、しんしんたる夜の道を」
という台詞の途中で交代。面白い。「駅伝」で、タスキをつなぐかのよう。
*豊竹咲太夫は「ワ行」の「ヰ(ゐ)」「ヱ(ゑ)」「ヲ(を)」が、明らかに「ア行」の「イ(い)」「エ(え)」「オ(お)」とは異なる、粘りのある(子音を含んだ)発音だった。具体的には、「窺い居(ヰ)る」「行方(ユクヱ)」「人目を(ヲ)忍ぶ」。「ラ行」の「義理」の「リ」も「ゥリ」というような粘り気があった。
その他、「ヤ行」の「親元」「薮畳」の「ヤ」、「聞こえた」「娘さんの声」の「エ」も、「ィヤ」「ィエ」のように聞えた。
*「合力金」(ゴウリョッキン)
*「ご厚恩」
*「門端も踏まされようか」
*「肉縁の深い」
*死んだと思っていた娘の玉手御前が、帰って来て戸を叩く姿というのは、イギリスの小説家・ジェイコブズによる怪奇小説「猿の手」を思い出した。
*「テさて悪い合点」=「さてさて」の「さ」が脱落。「話し言葉」では、あるのだろうな。
*「下さんせ」=発音は「さんせ」と、そのままのときと「しゃんせ」となることがある。
*「逆事」(サカゴト)
*「ウ\ソであろう」。「ウ\ソ」が「頭高アクセント」。
*「箸持ってくくめるような母の慈悲」=「くくめる」は「口の中入れてやる、口に含ませる」
*「間(ま)」=「いま」「ひま」の「ま」に通じるのか?
*「女夫(ミョウト)になりたい」
*「ぶち放す」
*「お志を無足(ムソク)にして」。「無足」=「無駄」の意味であろう。
*「なってたも」=「なってたもれ」=「なってくれ」の意味。
*「黒髪の『百(モモ)筋、千(チ)筋』」
<ここからは、襲名披露した「六代目・竹本織太夫」に交代>
*「身の罪障」
*「おっしゃります」(「おっしゃいます」ではなく)
*「けやけき姿」=「けやけい」は「けやけし」。「(1)著しく普通とは異なっている。異様できわだっている。(2)態度や様子が普通と変わって悪くはなはだしい。(イ)感情を害するさまである。態度がしゃくである。(ロ)様子が醜悪である。気味が悪い。(3)ぬきんでてよい。高貴である。すばらしい。(4)はっきりしている。きっぱりしている。」(『精選版日本国語大辞典』より)
*「無間(ムケン)地獄の釜揚げに」。濁らず。
*「息をホッと継ぎ」
*「継子(ママコ)大切」
*「継子(ママコ)さんの命をば」
*「次郎丸も俊徳丸も同じ継子(ママコ)」
*「継子継母(ケイシケイボ)の義理は立っても」
*「広大無辺 継母(ケイボ)の恩」
*「継母(ケイボ)は貞淑の鑑」=「継子」は「ママコ」しかなく「ケイシ」という読みは無かったが、「継母」は「ママハハ」と「ケイボ」の両方が出て来た。
*「むさいとも、うるさいとも」・・・「むさい」。
*「酒(ササ)」
*「叶へう」=叶えよう
*「お命、助けう」=助けよう
*「毒酒(ドクシュ)」
*「術(ジュツ)なかろう、苦しかろう」=「術ない」の意味は「工夫したり対処したりする方法がない。なすすべがない。また、苦しみや悩みごとがあってどうしようもないほど苦しい。ずちない。ずつない」(『精選版日本国語大辞典』)
*「お命に別条ない」。「条」でした。「状」ではなく。
*「不義徒(フギ・イタズラ)」
*「徒者(イタズラモノ)」
*「癩病(ライビョウ)にすることも」
*「あの癩病(ライビョウ)のご本復(ホンプク)」。「本復」は「半濁音」。意味は「回復」かな。
*「本復(ホンブク)の治法(チホウ)」。ここでは「濁音」。
*「本復(ホンブク)競いなし」。ここでも「濁音」。
*「父様(トトサン)母様(カカサン)」。「様」と書いて「サン」。
*「日本(ニッポン)はさておき」
*「阿呆なからじゃ、愚鈍なからじゃ」。「だから」ではなく「なから」。
*合三味線の他人の「ムッ」という漏れる息が、フラメンコの合いの手(=ハレオ)のようになっている。ちなみに、フラメンコの手拍子は「パルマ」。
*「悪名(アクミョー)受け」「アクメイ」ではなく。
*間違って父親に刺されて絶命しそうな「玉手御前」が、なかなか死なない。オペラ「椿姫」のよう。
*「玉手の水」「合邦の辻」は大阪市・天王寺区に実在するそうだ。
*「ネイご党」???
*「父の親粒が」???「親粒」???
*「死んだと思いるが」。「が」=「鼻濁音」
*「号(ナヅク)べし」=「号」には「なずく」=「名づける」という意味があった!
「文楽」は、もちろん「人形」(「人形遣い」)の動きを「見る」のもメインであろうが、実は、「太夫」の「語り」は大変力強く、圧倒的な存在感を持っているなと思いました。
しかし「声だけ」では聴き取れなかったものもあったと思う。しかし、舞台の上野ところに「字幕」が出ていたので「文字」でも確認できたので、ほぼ全ての言葉が分かりました。
まるで「オペラ」や「ミュージカル」の舞台の様でした。しかし、「日本語での字幕」だったので、館内で見かけた外国人観光客の方(最低でも10人ぐらいは、いたのではないか)は、わかったのかなあ?と、ちょっと思いました。
以上です!
(メモを取っていたから、かえって物語に集中できました=眠くならなかった。)