新・ことば事情
6641「だのに」
1月7日放送の日本テレビ「世界の果てまで行ってQ」で、宮川大輔さん率いる探検隊が、ラオスの秘境にある鍾乳洞へ行き、そこで「七色の照明」をつけて写真を取る。それが、2019年の「行ってQカレンダー」の1月を飾るという企画。本当に幽玄の世界というような一枚が撮れました。その際に、その七色に染まった鍾乳洞で宮川さんたち一行は、肩を組んで、
「若者たち」
という曲を歌っていました。1960年代後半かなあ、この曲は。
「♪君の行く道は」
で始まる有名なあの曲。それをほぼワンコーラス歌い切りました。その最後の方で、こんな歌詞に耳が止まりました。
「♪だのになぜ 歯を食いしばり」
この中の、
「だのに」
ですが、なぜ「なのに」ではなく「だのに」なのでしょうか?意味は、
「逆接」
ですよね。この場合は、「だのに」のほうが「文語的」です。「なのに」のほうが「口語的」に感じます。「平成ことば事情6640」で書いた「市川海老蔵に ござりまする」の「な」とは、逆だ!なぜ???もちろん、
・「だのに」=「だ」に「のに」が付いた
・「なのに」=「な」に「のに」が付いた
ということですが、前の文からの接続で言うと「なのに」のほうが自然ですよね。
ただ最近、「文頭」を、
「なので」
で始まる文章はおかしい、という主張が出て来ています。これは、意味は、
「順接」
ですから、「逆接」の「だのに」「なのに」とは正反対です。
そういった主張が出て来たということは、「おかしい」と声を挙げるぐらい、そういった「なので」で始まる文章が増えているということでもあります。
「おかしい」という人たちは、
「だから」
で接続すべきだという主張です。つまり、
「『だ』の方が『文章で使う言葉としては妥当』であり、『な』は『口語的』なのだ」
ということですね。そこから考えると、「若者たち」の「だのに」は、口語の「なのに」に移る前の、
「文章語・文語」
ではないかと推測されますね。グーグル検索では(1月9日)、
「だのに」=5330万件
「なのに」=6880万件
「だのになぜ」=251万件
「なのになぜ」=417万件
と、「なのに」の方が多く使われていますが「だのに」も結構あります。また、
「だから」=1億3200万件
「なので」=1億9600万件
でした。「1億」ってスゴイ。「基本語彙」ということでしょう。
そして、そのものズバリの、
『「若者達』の歌詞に「~だのに、なぜ...」とありますが、「なのに」ではなく何故「だのに」なんでしょうか? 現代語として、通用する言葉なんでしょうか?」
という質問が、「ヤフー知恵袋」に出ており、そのベストアンサーは、
『「な」「だ」は形容動詞の省略形とみられます。 下記のように形容動詞の連体形「~な」につくのが順当ですが、終止形「~だ」への接続も許容されるようです。
「のに」=〔接続助詞「に」の前に準体助詞「の」が挿入されてできたもの。近世以降の語〕 活用語の連体形に接続する。形容動詞型活用の場合、終止形に接続することもある。』
と出ていました。
『精選版日本国語大辞典』では、
*「だのに」=(助動詞「だ」に助詞「のに」が付いて自立語化したのもの)先行の事柄に対して、それに反した、あるいはそこからは予期されない結果などを述べる時に用いる。なのに。そうであるのに。それだのに。それなのに。」
*「なのに」=(1)(形容動詞の連体形語尾、または断定の助動詞「だ」の連体形「な」に接続助詞「のに」の付いたもの)・・・であるのに。・・・だけど。
(2)(「それなのに」の「それ」が省略されたもの)前の事柄に対し、後の事柄が反対・対立の関係にあることを示す。それなのに。だのに。
うーむ。「だのに」と「なのに」の明確な違いについては、記していませんね。
ちなみに『新明解国語辞典』は「だのに」は載せているのに、「なのに」は載せていませんでした。
そして、『三省堂国語辞典』を引くと「だのに」の説明の最後に、
「少し古い言い方」
と書かれているではありませんか!これです、これです、私が求めていたものは、飯間さん!!「なのに」も、もちろん載っていました。
(追記)
平成ことば事情0457「ニュースピーク」を19年ぶりに読んでいたら、こんな記述にぶち当たりました。
田中克彦『ことばと国家』(岩波新書、1981、11、20初版)からの引用です。
『ドーデは、「ドイツ人たちにこう言われたらどうするんだ。君たちはフランス人だと言いはっていた。だのに君たちのことばを話すことも書くこともできないではないかと」というふうにアメル先生に言わせているのである。』
この中に、
「たのに君たちは」
と「だのに」があるではないですか!「1981年」に田中克彦は「だのに」を使っていたのですね。
令和ことば事情7301「『なので』と『なのに』」もお読みください。
(2020、1、8)