新・ことば事情
6628「ラウンジ」
11月から世の中を騒がせている大相撲、元横綱・日馬富士による傷害事件。
10月25日の深夜、暴行の現場となったのは、秋巡業の際の鳥取の飲食店でした。その店の形態が、
「ラウンジ」
と報じられていますが、ちょっと待てよ、と。たしか「ラウンジ」という形態の飲食店=飲み屋さんは「西日本」では一般的ですが、「東日本」では一般的ではないのではないか?ということに思い当たったのです。
そこで、12月の新聞用語懇談会放送分科会の席で、各社に意見を聞いてみました。
『横綱・日馬富士の暴行事件が起きた、鳥取の「ラウンジ」。以前、用語懇談会で、「酒を飲む店としての「ラウンジ」は、関西をはじめとした西日本では使うが、関東では使わない」という話を聞いたような気がします。関東では、「ホテルのラウンジ」「空港のラウンジ」など、「パブリックなオープンスペースの休憩場所」のことを指すようですが、関西では、「ク\ラブ未満、「スナック」以上で女性が接待してくれるお酒を飲ませる店のことを「ラウンジ」と言います。「パブラウンジ」なる言葉もあります。でも、暴行事件のあった鳥取の「ラウンジ」は、「お店に、接客の女性はいなかった」ような感じです。関西と鳥取では違うのでしょうか。この場合、「ラウンジ」で放送して良かったのでしょうか。」
→(新聞協会用語アドバイザー)何年か前に「ク\ラブ」と「ク/ラブ」のように「外来語のアクセント」について討議した際に、私が「ラウンジ」について提案したが、その時は取り上げられなかった。
(テレビ朝日)これは、アクセントは「ラ\ウンジ」(頭高)?それとも「ラ/ウンジ」(平板)?
(関西テレビ)関西では「ラ/ウンジ」(平板)は一般的で、放送でも使う。「頭高アクセント」の「ラ\ウンジ」とは言わない。
(NHK)『NHKアクセント新辞典』では(1)「ラ\ウンジ」(頭高)(2)「ラ/ウンジ」(平板)と載せているが、意味の使い分けはしていない。今回の原稿では「午後11時すぎ、市内の『ラウンジ』と呼ばれる飲食店で」とした。しかし、普段は「ラウンジ」というと「ホテルのラウンジ」か、豪華列車「トワイライトエキスプレス瑞風(みずかぜ)のラウンジ」などしか出て来ない。
(日本テレビ)今回の件では「ラウンジ」と原稿にあった。アクセントは、わからず。過去1年の原稿を検索してみたら、「ビッグラウンジ」「専用ラウンジ」「空港のラウンジ」などは出て来たが、酒を飲む店としての「ラウンジ」は、出て来なかった。
(テレビ朝日)「ラ\ウンジ」(頭高アクセント)は「飲食店」に言い換えている。酒を飲む店としての「ラウンジ」は使わなかった。
(TBS)今回、第1報では「ラウンジ」を使った。アクセントは分からず。それ以降は「飲食店で」「懇親会の席で」とした。やはり「ラウンジ」と聞くと、ホテルや豪華列車の「ラウンジ」を思い浮かべる。
(フジテレビ)「飲食店」としている。今回の「鳥取の店」は、取材担当記者に聞いたところ「接客の女性がいる店」だった。
(テレビ東京)今回は「ラウンジ」は使わず「酒の席で」にした。
(ABC・A氏)酒を飲む店としての「ラウンジ」を使っていけないということはない。アクセントは「平板アクセント」の「ラ/ウンジ」。これも使ったし「飲食店」でも放送した。「ラウンジ○○」と言うように「その店の名前=固有名詞」として出てくることも多い。
(ABC・B氏)「ラ/ウンジ」は「平板アクセント」だ。「ラウンジ・しのぶ」のように名乗っている店が多く、場末になるほど「ラウンジ」と付けて"高級感"を醸し出しているように思う。
(MBS)店の業態について調べて見たところ、行政書士のHPで「クラブ・ラウンジ」は、同じように「(女性が)接客をしてよい店」に分類されている。女性従業員が「客の横に座る」か、「バーカウンターの向こうにいる」かによって、恐らく「風営法」の対象かどうかなどが変わって来るのではないだろうか。
(KTV・A氏)「スナック」は女性が横に座ってはいけない。女性はカウンター越しに接客。「ラウンジ」「クラブ」は、横に座ってもOKだ。
(KTV・B氏)「尼崎の違法ラウンジ摘発」のように、警察発表で「ラウンジ」は普通に出て来る。「ラウンジ」かどうかわからないときは「クラブ」「スナック」「飲食店」などとしている。
(テレビ大阪)関東の人は「ラウンジ」に「飲食店」のイメージは、ないのではないか?
うちの鳥取県出身のアナウンサーに聞いてみたところ「鳥取には(関西のような)ラウンジはない」とのことだった。
(テレビ朝日)原稿で「ラ\ウンジ」(頭高)というと、ホテルや空港のものしかイメージできない。また「ラ/ウンジ」(平板)で「女性が接客」というイメージも湧かない。わざわざ「女性が接客をするラウンジで」とは書けない。今回、日馬富士と貴ノ岩らの暴行事件が起きた「VIPルーム」に、女性はいたのか?第三者がいる前で暴行が行われたかどうかというのも、重要なポイントだと思う。
(共同通信)今回は「ラウンジ」「飲食店」が混在している。「2次会でラウンジに行った」など。私も西日本勤務が多かったが、経験上、九州・四国・関西では「ラ/ウンジ」で「飲食店」のイメージは湧く。ネット検索では北海道・札幌でも「ラウンジはるか」というのが出て来た。なお加盟社から、この「ラウンジ」に関する質問・指摘等はない。
(時事通信)今回「ラウンジ」は、「飲食店」「酒席」などとした。
ということでしたが、その後、12月20日の日本相撲協会の危機管理委員会の調査報告書によると、その店の部屋には、「ホステスの女性が2人いた」ことが分かりました。
また、その危機管理委員会の調査報告書発表でも、
「ラウンジ」
という言葉が使われていました。
「調査報告書」で気になったのは、貴ノ岩関は、元横綱・日馬富士に対しては、
「すいません」
と言い、横綱・白鵬に対しては、
「すみません」
と言っている、とされていること。これは、「発表がそうだっただけ」でしょうか?それとも「実際に『い』と『み』が違った」のでしょうか?
また、
「ひと段落」
という言葉が「2度」出て来ますが、これは正しくは、
「いち段落」
ですね。「一段落」と書けばいいのに、と思いました。