新・ことば事情
6613「不妊か?避妊か?」
ペットに、子どもを産めなくする手術は、
「不妊手術」
でしょうか?それとも、
「避妊手術」
でしょうか?人間の場合には、
「不妊治療」
と言うと、
「子どもを産めるようにすること」
ですが、ペットの場合は「正反対」に、
「子どもを産めなくすること」
が目的ですね。「不妊」と「避妊」、どちらを使えばいいのでしょうか?
11月に開催された関西地区新聞用語懇談会で質問したところ、各社の用語委員から意見が出ました。
(読売新聞)夕刊で『ペットライフ』を取り上げた際は、全体としては「不妊手術」。
そのうち、「メス=避妊手術」、「オス=去勢手術」と表現した。
(朝日新聞)文脈で使い分けるのでは?
(KTV&MBS)動物病院では、犬もネコも「メス=避妊手術」、「オス=去勢手術」だ。「不妊手術」は使わない。
ということでした。なるほど。オスとメスで違うのか。いずれにせよ、ペットの場合、
「産めなくする手術」
に「不妊」は使わないようですね。
「メス=避妊(手術)」
「オス=去勢(手術)」
のようです。
ところが、12月3日に、
「不妊手術」
という言葉を使われているのを見かけました。ただしこれは「ペット」ではなく、「人間」に使われていたのです。
それは、宮城県内の60代女性が、ナチス・ドイツの「断種法」をモデルとした「国民優生法」を前身とする「旧・優生保護法」(1948~96年)の下で、国が知的障害などを理由に『不妊手術』を強制したのは、個人の尊厳や幸福追求の権利を保障する憲法に違反するとして、国を相手に国家賠償と謝罪を求めて来年1月にも仙台地裁へ提訴する、というニュースでした。女性は当時10代。こういった「旧・優生保護法」に基づく障害者らへの『不妊手術』は、全国で約2万5000件も確認されているそうです。
ナチス・ドイツ同様、日本でも当時、「現在と正反対の目的」で、現在の「ペット」に対するのと同じ目的で、「人間」に対して、
「不妊」
という言葉を使っていたのですね・・・。