新・ことば事情
6612「カザニか?カザンか?」
12月15日の朝刊各紙に、来年6月に迫ったサッカーワールドカップロシア大会での日本チームのキャンプ地が決まったという記事が出ました。その地名表記に、ばらつきがみられました。「Kazan」という都市の表記が、
(産経)カザン
(読売)カザニ
(朝日)カザニ
(毎日)カザニ
で、「日経」は載っていませんでした。「産経」だけ、
「カザン」
で、あとは、
「カザニ」
でした。ちょっと古いですが、手元の2010年版の「帝国書院」の地図では、
「カザニ」
でした。「カザン」だと「火山」みたいですね。
グーグル検索では(12月15日)
「ロシア・カザニ」= 3万1700件
「ロシア・カザン」=28万5000件
で、なんと「カザン」のほうが圧倒的なんですね。「外務省」を付けて検索すると(12月18日)、
「外務省・ロシア・カザニ」= 387件
「外務省・ロシア・カザン」=8230件
と、やはり「カザン」が圧倒的。「カザン」は、2012年6月に開かれたAPEC貿易担当大臣会合の開催都市名として、外務省のホームページに出て来ました。また、2016年9月の外務省ツイッターにも、
「ロシア経済近代化に関する日露経済諮問会議第6回会合が、19日、ロシア連邦のタタルスタン共和国カザン市で開催されました。」
と出て来ました。
一方「カザニ」は、「共同通信」発の記事と、「地方新聞」に多いような。地方新聞の外電は「共同通信の記事」であることがほとんどでしょう。たとえば、2016年7月29日の記事で、
【イスタンブール共同】トルコのクーデター未遂を巡り、同国のチャブシオール外相は28日、これまでに大使級の幹部を含む外務省職員88人を解雇したと発表した。このうちの1人はロシア中部タタルスタン共和国カザニの領事館職員で、日本に逃亡したことも明らかにした。アナトリア通信が伝えた。」
というようなところに「カザニ」が出て来ます。共同通信の知り合いに聞いたところ、
『「Kazan」の読み方について、共同は『記者ハンドブック』で『カザニ』としています。
ハンドブックは『ロシア語』の項目の中で(ロシア語の読み方です)
軟音符「'」は「イ」として扱う。対応するラテンつづりはない。
外電などではしばしば軟音符が省略されるので要注意。
〔例〕 Astrakhan' アストラハニ
Kazan' カザニ
Arkhangel'sk アルハンゲリスク
Ol'ga オリガ
Gogol' ゴーゴリ
としています。』
とのこと。
『共同通信記者ハンドブック』は市販されていて、私も持っています。急いで見てみると、たしかに「718ページ」に載っていました!
読売新聞社の『読売スタイルブック』2017」の外国の地名でも、
「カザニ」
になっていました。
「産経新聞」だけ、なぜ「カザン」なのかな?今度、聞いてみようっと。
(追記)
2018年1月31日、共同通信のOさんからメールが届きました。
「共同はロシア・タタルスタン共和国の首都を、これまで、
『カザニ』
と表記してきましたが、
『カザン』
に変更しました。
『カザニ』はロシア語発音の表記で、現地タタール語の発音は『カザン』の方が近いためです。また、W杯とは関係ありませんが、同じ理由でロシアの別のタタール系の町、
『アストラハニ』
も、
『アストラハン』
に変更しました。」
とのことです。もしかしたら6月のワールドカップ・ロシア大会までに、各社も変更があるかもしれませんね。Oさん、わざわざありがとうございました!
(2018、1、31)