新・ことば事情
6598「沙知代夫人」
2017年12月8日、元南海・ヤクルト・阪神・楽天監督の野村克也氏(82)の妻、
「野村沙知代さん」
が虚血性心不全で亡くなられました。85歳でした。
沙知代さんを指して、
「沙知代夫人」
という言い方がよく取り上げられたのを思い出します。
そこで、新聞用語懇談会での「○○夫人」に関する討議をここに記し、故人の安らかなる眠りに捧げたいと思います。合掌。
*****************************************(野村)沙知代夫人・(鳩山)幸夫人=2001年9月&2009年10月(関西)&
2009年12月&2017年11月(関西)
【2001年9月・放送分科会】
「野村沙知代夫人」経歴詐称問題で。つまり、「野村沙知代」氏の肩書きとして「野村克也阪神タイガース監督の夫人」というものがついている、ということ。「稲垣吾郎メンバー」と同じ考え方か。
【2009年10月(関西地区新聞用語懇談会)】
「幸夫人」という表現は、正しくは「鳩山総理夫人」ではないのか?(MBS)
→野村克也・前楽天監督の夫人を「沙知代夫人」と呼ぶのと同じで、ある意味「固有名詞」なのではないか?もちろん、正しくは、「鳩山総理夫人の幸さん」であろうが、「(鳩山)幸(・総理)夫人」というように( )が省略されて「幸夫人」となっていると考えられなくもない。
【2009年12月・放送分科会】
「幸夫人」について。 「正しくは『鳩山由紀夫夫人幸さん』ではないか」という意見が弊社番組審議委員から寄せられました。各社の見解を教えてください。(MBS)
(以下:寄せられた意見)
・鳩山政権誕生以降、「幸夫人」(みゆきふじん)を情報番組を中心に連発している。「鳩山夫人」や「鳩山由紀夫夫人」ならわかるが、あえて言うなら「幸さん」(みゆきさん)ではないか。
・「真珠夫人」などが出てから「夫人」の使い方が変わったのかも知れない。別な人物だが、「真紀子氏」というのもよく出てくる。「氏」は名字。氏なのだから「田中真紀子氏」ならわかるが、「真紀子氏」がよく使われている。
・言葉は変わるもので、誤用がいつのまにか正しくなることもあるが、放送が、まして全国ネットの番組が率先して、毎日連発しているのはどう考えてもおかしい。「幸夫人」はやめてほしい。
(フジテレビ)「その昔『デビ夫人』がおかしいと思った。『スカルノ夫人』ではないのか?」
・「あれは『第○夫人』というふうにたくさんいる。本妻の『スカルノ夫人』は一人だけなので、仕方がないのでは・・・」
・今や「デビ夫人」は、「叶姉妹」のような「芸名」では?
(フジテレビ)「目くじらたてなくても・・・」
(NHK)「(野村前監督夫人の)『沙知代夫人』もあった」
(テレビ朝日)ファーストレディーに個性がある場合(キャラが立っている)は、ファーストネームで呼ばれることがある。クリントン大統領夫人時代にはヒラリー・クリントンは『ヒラリー夫人』と呼ばれていたし、現在のオバマ大統領夫人も『ミシェル夫人』と呼ばれている。『イメルダ夫人』もあった。『○○夫人』がおかしい、と言う方がおかしいと思う。
(共同通信)ニュース原稿では「妻の幸さん」だが、「首相動向」では「幸夫人」も出てくる。オバマ大統領の「ミシェル夫人」も使っている。
【2017年11月(関西地区新聞用語懇談会)】
「昭恵夫人」という表現は、「夫」である「安倍首相がメーン」で、「妻が付属物」のように感じる。「安倍首相の妻・昭恵氏」とするべきではないか?(朝日新聞)
→(毎日新聞)「昭恵夫人」が連日出て来た今年3月末に、「安倍昭恵首相夫人に関しては『妻・昭恵さん』とする」という用語通達があった。でも「○○夫人」は使っている。しかし複数出て来る場合は「妻・○○さん」という表現にそろえている。(例)「トランプ大統領の妻・メラニアさん」と「安倍首相の妻・昭恵さん」
(共同通信)「首相夫人」=「ファーストレディー」という意味では「昭恵夫人」を使う。「安倍昭恵・首相夫人」は、あえて「昭恵夫人」とする。
(MBS)「安倍晋三夫人・昭恵さん」とする。
(ytv)過去の用語懇談会で出て来た何度か「○○夫人」について討議されている。
2001年9月の放送分科会では「野村沙知代夫人」という表現について、2009年10月の関西地区用語懇談会と2009年12月・放送分科会では、「『幸夫人』という表現は正しくは『鳩山総理夫人』『鳩山由紀夫夫人・幸さん』ではないのか?と共にMBSから議題として上がった。
(スポニチ)昔の伝記で「キュリー夫人」とあった。「○○夫人」はおかしくないのでは?
(各社)「キュリー」は名字。問題は「ファーストネーム(名前)+夫人」の場合。昭恵さんの場合も「安倍(首相)夫人」ならば問題ない。
(MBS)昔は女性の「名前」は言わなかった。「名字+夫人」だった。「ファーストネーム+夫人」が出て来たのは、「ジェンダー問題」への対応が進んで、女性の地位が上がったからで、「尊称」である。