昨年あたりの流行語に、
「LGBT」
がありましたね。これは、
「L」=レズ
「G」=ゲイ
「B」=バイセクシャル
「T」=トランスジェンダー
の「頭文字」を取ったものです。いずれも
「性的少数者」
です。こういった言葉に関して、新聞用語懇談会で話したことは、過去にあまり、ありませんでしたが、今年の秋の用語懇談会では、「LGBT」について話し合いが2度ありました。というのも、関西地区の幹事社である朝日新聞社が、今年社内で「ジェンダー」関連のマニュアルを更新したこともあって各社の状況について聞きたいからということでした。
私が用語懇談会の会議に出始めて20年。その間に話し合われた「ジェンダー関連」の議論中で、「性的少数者」関連の記録を残しておきます。
*2002年11月 合同総会(鹿児島)
性転換か?性同一性障害か?
「『性転換』と書いたら、『性同一性障害』と思われる人から『男性から女性への"転換"という表現は不適当』という苦情があった。代替案の提示はなかった」
という意見が神戸新聞の委員から出され、それに対して山陽新聞の委員からは、
「岡山大学で性転換手術が行われたと報じたら、岡山大学から『これからは"性適合化手術"と呼んで欲しい』という要望があり、以後はそのように報じている」
という意見が出ました。
*2014年6月 放送分科会
日本精神神経学会が精神疾患の病名の新しい指針を公表しました。
・「学習障害」⇒「学習症」 ・「アルコール依存症」⇒「アルコール使用障害」
・「性同一性障害」⇒「性別違和」 ・「パニック障害」⇒「パニック症」
などに変更されています。差別意識や不快感を生まないようにしながら、病名を周知させるのが狙いとのことです。いずれにせよ、これに従うことになると思うのですが、各社の対応・方針はどうなりますか。時期等のめどがあればお教えください。
※日本新聞協会への学会からの申し入れ等はありましたか?(毎日放送)
→【事務局から】6月3日現在、協会に申し入れ等はありません。他になじみのあるところでは「神経性無食欲症(拒食症)⇒神経性やせ症」「言語障害⇒言語症」「注意欠陥・多 動性障害(ADHD)⇒注意欠如・多動症」などが例示されており、病名の詳細は「日本精神神経学会」のサイトから「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」で確認できます。
→NHK,共同通信をはじめ各社まだ対応を決めていないが、これまでの例から言うと、国(厚生労働省)が決定したら、その段階で新しい名称を採用することになるだろう、と。「性同一性障害」に関しては、法律名にもなっているので変更は慎重にということになるかもしれない。
*2017年11月 関西地区用語懇談会
「LGBT」は、「L」(レズ)、「G」(ゲイ)、「B」(バイセクシャル)、「T」(トランスジェンダー)を指すが、「LGB」は「性的指向」の問題。「T」(トランスジェンダー)は、「自分の性をどう考えるか?」というう「性自認」の問題。しかし「T」(トランスジェンダー)だからといって医療・治療を必要とする「性同一性障害」だとは限らない。
この他の「性的少数者」には、
・「インターセックス」=身体的に男女の区別がつきにくい人
・「アセクシャル」=無性愛者。同性も異性も好きにならない人
・「クエスチョニング」=自分の性別や性的指向に確信が持てない人
などがいて、「LGBT」が全ての「性的少数者」を含むわけではない。「LGBT」の認知度が上がる中で、かえって「その他の性的少数者」の疎外感が深まる恐れもある。
また「男性も女性も暴力から解放される社会」という記事があったが、「男性」と「女性」だけでいいのか?ここは「性別に関係なく」とすべきではないか?(朝日新聞)
→(毎日新聞)東京本社で先日、LGBTに関する会議が行われたそうだ。その席で表記は「性的少数者(LGBTなど)」とすることになったらしい。記事で、あるクラスに1人だけ「LGBT」の子がいて、その子を指すのに「LGBTの生徒」という表現をしていたが、ちょっと違和感があった。
(ytv)先日、地下鉄の駅に無料で置いてある『SUMO』という冊子を見たら、「同性カップルの住宅購入術」という特集を組んでいた。まさに時代は変わった。ここまで進んでいるのかと思った。東京・渋谷区では2年前から、条例で同性カップルのいわゆる「入籍」(パートナーシップ証明書)を認めている。この2年での「届出」は24組であったとと、昨日(11月5日)ニュースでやっていた。
(朝日新聞)弊社も「同性カップル」を社内規定で認めた。
*2017年11月 合同総会(岡山)
・「LGBT」「LGBTQ」...性的少数者(セクシュアルマイノリティー)の表記について
いわゆる性的少数者の人たちを表す際に、女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)、男性
同性愛者(ゲイ、Gay)、両性愛者(バイセクシュアル、Bisexual)、身体と心の性が
異なるが外科的手術は望まない人(トランスジェンダー、Transgender)の各単語の頭文字を組み合わせた「LGBT」という言葉を、しばしば目にするようになりました。
また、最近では、「LGBT」の他に、自分の性別や性的指向に確信の持てない、模索中の人(クィアー・クイアー、Queer。クエスチョニング、Questioning)の単語の頭文字である「Q」を加えた「LGBTQ」という表現も見かけます。
この「LGBTQ」の他にも「LGBTT」(「身体と心の性が異なるため、外科的手術によって一致させることを望む人=トランスセクシュアル、Transsexual」の頭文字「T」を加えたもの)など、性の多様性を表す『頭字語』は、まだたくさんあるそうです。
どうも、「性的少数者=LGBT」という表記では収まらないようにも思います。
実際に各社では、この「LGBT」あるいは「LGBTQ」、性的少数者の表記を記事などで使用する場合、初出部分ではどのような説明、処理をしていらっしゃいますか?
「用語統一している」「自社用語集に載せる予定あり」なども併せてお聞かせ願えれば幸いです。 ※ちなみに、「性的少数者(LGBT)」、「LGBT(性的少数者)」といった表記が、
一番多いようですが、
《...性同一性障害の僧侶、柴谷宗叔(しばたに・そうしゅく)さん(63)が、性的少数者(LGBTなど)のための寺「性善(しょうぜん)寺」を来年度中に大阪府寝屋川市に建立しようと準備を進めている》(「毎日新聞」2017年10月28日東京夕刊)
の記事のように、この僧侶が「性的適合手術」を受けていて、「性的少数者(LGBTなど)」とされている場合もありました。「LGBTなどの性的少数者」という表記を用いた記事も散見されます。
「LGBTQ」については、まだ、用例は少ないようですが、
《【ロサンゼルスAFP=時事】...ディズニー・チャンネルの番組に性的少数者(LGBTQ)が登場するのはこれが初めてではなく、2014年にドラマ「グッドラック・チャーリー」のあるエピソードにレズビアンのカップルが登場している。しかし同チャンネル番組のメインストーリーで性的少数派が扱われるのは今回が初めて。【翻訳編集 AFPBBNews】(2017/10/27-12:53)》
といったように、外信記事(翻訳含む)での使用例を見かけました。)
また、11月1日付「朝日新聞」のコラム「ことばの広場」で「SOGI(ソジ)」という言葉を紹介していた。「SO」=性的指向、「GI」=性自認。「LGBT」のうち「LGB」は「SO」であり、「T」は「GO」だ。(産経新聞)
→(朝日新聞)去年からジェンダー問題について討議してきた。「LGBT」に関しては「こう表記する」と決めているわけではないが・・・。「性的少数者」=「LGBT」では収まらないことは認識している。また「SO」と「GI」の概念を混同しないことも心得ている。とは言え、「LGBT」に対する関心・認識が広まったために、「LGBT」=「性的少数者」のイメージが付いた。「LGBTなどの性的少数者」「性的少数者(LGBTなど)」と「など」を付けるか、もしくはあえて「LGBT」と書かなくて良い。
(毎日新聞)2016年3月、「性的マイノリティー差別」に関して「用語集」の資料集に追加し、PDF版で記者に配布した。(「紙」の資料集は、次回の改訂で。)「LGBT」が誤解されずに理解されるようにしたい。「セクシャルマイノリティー(性的少数者)」が「LGBT」と完全に同義ではない。また「総称」でもない。表記は「LGBTなど性的少数者」「性的少数者(LGBTなど)」とする。
「SOGI」に関しては、国連などでこの略称を使っているが、「LGBT」には置き換えられない。これからは「SOGIの問題」となれば考える。「LGBT」などの当事者に取材したことがある記者に聞いてみたところ、「当事者が嫌がる表現はダメ」。「性転換手術」は「性適合手術」に、「性同一性障害」は「性別違和」に置き換えるということだが、「性別違和」は、なかなか浸透しないので、使うときは分かるように説明する。また「性同一性障害」の、「障害」という言葉を嫌う人がいる。
(読売新聞)編集局内で「性的マイノリティー」に関する議論は特にない。表記は「LGBT(性的少数者など)と「など」を付ける。
(日経新聞)「LGBT」「LGBTQ」についての取り決めはない。「LGBT」は「性的少数者」「性的マイノリティー」と呼んでいたが、最近は「性的少数者(LGBT)」という表記が多い。
(東京新聞)「LGBT」については、具体的には話し合われていない。認識はしているが、これからの課題。
(共同通信)「性的少数者(LGBT)」で出稿。議論して社内で統一したわけではない。現場での取材の結果、この表記が固まった。「LGBT」はある程度、定着。各団体などの議論も見守っていきたい。
(時事通信)弊社の「用字用語ブック」には載っていない。「性的少数者(LGBT)」としている。表記が長くなるが「同性愛者や、自身の性別に違和感のある人(LGBTなど)」としては?という人も、一部いる。
(NHK)「LGBT・性的マイノリティー(の人々)」としている。「LGBTQ」での出稿はない。うちの倫理部門から毎日、紙資料が出る。最近は「LGBT」に関してはあまり出て来ないが、以前はよく出て来た。近々「LGBT」の人を呼んで、局内でシンポジウムを開く予定。
(日本テレビ)原稿では「LGBT(性的少数者)」「性的少数者(LGBT)」。話し合いは行われていない。日本テレビ社員憲章に「偏見はダメ」と書いてある。
(フジテレビ)ここ1年の原稿では「性的少数者(LGBT)」「LGBT(性的少数者)」。少し前の原稿では「レズ、ゲイなどを指すLGBT」。「LGBTQ」はなし。一般的な原稿では、このぐらいの説明を付ける。
(テレビ朝日)ルール化はなし。過去の原稿では「性的少数者(LGBT)」「LGBT(性的少数者)」と必ず「併記」している。今後については未定。
(テレビ東京)特に取り決めなし。原稿では「LGBT(性的少数者)」。今後については、まだ話し合いはない。
(テレビ朝日)ドラマなどでは、「LGBT」の設定というのは、よく出て来る。
平成ことば事情6627「LGBT(性的少数者)」
平成ことば事情6627「LGBT(性的少数者)」