新・読書日記 2017_131
『スリーパー 浸透工作員~警視庁公安部外事二課(ソトニ)』(竹内明、講談社:2017、9、26)
北朝鮮の若い工作員が主人公。現実の出来事と、我々は知らないので現実かどうかわからないことが、ないまぜになっている。ちょうど「北朝鮮の脅威」を安倍首相があおって衆議院解散を行った頃に読み始めたので、「こういうスパイが、本当に日本に入り込んでいるのではないか」(たぶん)ということを、現実感を持って読むことができた。しかし、これだけシリアスなものをリアルに書ける作家さんがいたんだなと思って、著者の「竹内明(めい)」さんの「著者略歴」を見ると、1969年生まれで慶應義塾大学を卒業して、1991年TBS入社。え?同業者か?今年3月まで「Nスタ」のキャスターも務めたと。すみません、勉強不足で、全然知りませんでした。それでTBSを辞めた訳でもなく作家活動もしていたのですね。凄いなあ。TBSも懐が深い。
ちょうどこの時期に読んだ「3冊の本」が、部「TBS」がらみ。この本の他の2冊は、1冊は「久米宏」さんが書いた本、『久米宏です。ニュースステーションはザ・ベストテンだった』。彼も元・TBSアナウンサー。そして、もう一冊はTBSの社員が書いたのではなく、元TBS社員の男が「準強姦罪」で訴えられた話。そう、伊藤詩織さんの『ブラックボックス』。本当、TBSは、懐が深いわ。
読んで気になって点を箇条書きにします。
・「T字路の突き当たりの青い屋根の家。これが筒見のかつての我が家だった。」(81ページ)=「T字路」。「丁字路」ではなく。
・「ステガノグラフィー」=インターネット上の画像に隠されたテキストや音声ファイルを復号して、指令を受信する暗号(104ページ)=知りませんでした。
・「先日、交番で応対した女警に当時の状況を再聴取したら、妙なことを言うのです。」(218ページ)
「若い女警なのですが、芸能人のことをあまり知らないらしくて」(218ページ)=「女警」という言葉があるのか「婦人警察官」が「婦警」というのはあったが、「女性警察官」は略すと「女警」なの??
・「倉本雅恵背乗り事件が絡んでいるのではありませんか?」(218ページ)
・「工作員が背乗りする日本人の身分は、偵察総局にやる厳重な審査のうえ、複数の候補から選択される。捜索願が出されることのない、天涯孤独の日本人で、北朝鮮に拉致された者、もしくは工作員によって殺害された者の身分が選ばれる。したがって、本物を名乗る者が現れることなど、共和国の工作史上あり得なかった。」(240ページ)=「背乗り(はいのり)」という言葉。知らなかった。
・『机の上に一眼レフカメラがあった。ニコン製の高級機、ずっしりと重いプロ仕様のものだ。電源を入れ、再生ボタンを押した。「これは、、、」言葉がこぼれた。モニターに表示されたのは、夜、撮影された写真だった。』(232ページ)=モニターが付いて再生できるようなデジタルカメラでも、「一眼『レフ』カメラ」があるのか???
・『「お目覚めですか。頭痛や吐き気は?」筒見はこの女が医師であることに気付いた。「ああ、大丈夫だ」女医はペンライトを筒見の両眼の瞳孔に当てた。』(235ページ)=「女医」という言葉。さっきの「女警」といい、ハードボイルドな、ジェンダー表現とは無縁な漢字の小説。
・「老婆は半年前のある日、浅草駅前の交番に現れ」(240ページ)=「老婆」も最近見ない表現。「老婆の休日」なんちゃって。
・『筒見は片方の口の端を僅かに持ち上げた。「私は一線を越えてしまいました。飯島さんたちは私に何があっても、知らぬふりを通してください。」』(249ページ)=これは流行語の「一線を超える」を織り込んでいるのか?(笑)
・「晩秋の好天に恵まれた朝、北朝鮮は捨て身の挑発に打って出た。アメリカや中国の警告を無視して大陸間弾道ミサイルの発射実験を行ったのだ。新型ミサイルは北東方向に飛び、北海道上空を越えて、六千キロ離れたアメリカ・アラスカ沖に着弾した。」(286ページ)これは「事実」を織り込んで来てますね。そういったところがあると、真実味が出ますね。