新・ことば事情
6519「四つ巴」
先週金曜日の「ミヤネ屋」で、衆院選挙の激戦区「東京24区」で「4人の候補」が戦っている様子を、テロップ(Bチャン・サイドスーパー)で
「東京24区 "四つ巴"の激戦区に密着」
と表現したところ、視聴者から、
「『四つ巴』という言葉はありません。『巴』は、水が流れてぐるぐる回る様を表しますので、4人で争う様を表す際は、『四強』が正しいと思います。」
というご指摘が。そういう「慣用句は無い」ことは分かっていたので、わざわざ、
" "
を付けて「比喩的表現」と表したのですが、伝わらなかったようです。
そして週明けに、今度は「視聴者センター」のYさんから、
「教えていただきたい」
というメールが来ました。それによると、
「『四つ巴』は、誤用で使用不可なのでしょうか?ご教示いただけましたら幸いです。」
とのこと。日本テレビのマニュアルでは、
「『三者入り乱れて絡み合う』意味の慣用句は『三つ巴』だから、『四つ巴の戦い』などと言うと違和感をもつ向きもあるだろう」
とあり、
「注意して使いたい言葉、紛らわしい表現」
として記載があるそうです。
そこで視聴者センターのYさんには、こういう返事を返しました。
『お疲れ様です。お尋ねの件、「ミヤネ屋」では一応" "を付けて「三つ巴」ではなく4人なので、そういう言い方は普通はしないけど" "を付けての「四つ巴」としました。
これに関しては今、調べたところ『放送で気になる言葉2011』(ピンクの表紙)の54ページにコラムがありました。書き写しますと・・・、
****************************************
「四つ巴」
四者が争う場合、「四つ巴の争い」などと使うのは「三つ巴」からの類推、あるいは勝手な造語とされてきた。1981年版『新聞用語集』収録の「誤りやすい慣用語句」にも「四つ巴」の項があり、<「三つ巴」までは家紋にあるが、「四つ巴」はない。「四者入り乱れて」などと言い換えるのが妥当である>と記されている。
しかし、その後の調べで「四つ巴」の家紋があることが分かり、この項は1996年版『新聞用語集』では削除された。
参考までに『日本大百科全書』(小学館)の「巴」の一部を引用する。
<<巴を三つ組み合わせ丸紋風に構成したものが「三つ巴紋」であるが、巴にはこのほか、一つ巴から九つ巴までの巴があり、さらに、これに剣や雲などを添えて、きわめて多様な模様、紋章を生み出している。>>
相撲界では三者による優勝決定戦を「巴戦」と呼ぶ。柔道の「巴投げ」は「二つ巴」だろうが、イメージとしてはこの方が理解しやすい。
ただ、「三者入り乱れて絡み合う」意味の慣用句は「三つ巴」だから、「四つ巴の戦い」などというと違和感を持つ向きもあるだろう」
****************************************
ということで、「四つ巴」という家紋は「ある」ので「間違い」とは言えないが、「慣用句」として使われて来たのは、
「三つ巴の戦い」
なので、「四つ巴の戦い」とか「五つ巴の戦い」などという表現を使うと、違和感を持つ視聴者もいらっしゃるだろうということで、今回は正にそういった事態ではないでしょうか。
ということでした。