新・ことば事情
6515「存亡の危機」
9月21日に発表された毎年恒例の文化庁「平成28年度 国語に対する意識調査」によると(調査は平成29年2~3月に、16歳以上の男女3566人に個別面接で行われ、有効回収率56、5%。)
「存亡の危機」
という言葉が、
「存続するか滅亡するかの重大な局面」
の言い方として定着していることがわかりました。
実は、本来の慣用句は、
「存亡の機」
だそうで、どちらを使うかという問いには、
「存亡の機」 = 6、6%
「存亡の危機」=83、0%
と、本来の方ではない「存亡の危機」を使う人が8割を超えました。文化庁は、
「『存亡の危機』も、『誤用』といえる段階ではない」
としています。
この言葉に関しては、5年前の2012年5月に開かれた「関西地区新聞用語懇談会」でも、アンケートと共に討議されたことがあります。
「気になる言葉遣いを、どこまで直すか~発言の引用などの場合」
というアンケートで、その各社の回答を基に、それぞれの相違点や根拠などについて討議、意見交換をしたのです。その際、最初に幹事から、
「『その他』では朝日新聞が多いが、朝日は2人の委員から別々に回答が出され、その2人の間の意見が違った場合に『その他』にした」
との説明がありました。
その朝日新聞からは、校閲担当のデスク・キャップ14人に聞いた具体的な数字の一覧表が配られました。それによると、「14人中10人以上」が、「直す」あるいは「直さない」と答えたものの中には、
*「直さない」=「存亡の危機」13人(○「存亡の機」「存亡のとき」)
と「存亡の危機」があり、朝日新聞ではもう「存亡の危機」は「OK」ということでした。アンケートに回答した社全体では、
*「存亡の危機」 :直す:直さない=8:6 場合による:その他=9:1
という結果で、かなり拮抗していました。
また、文化庁の調査が発表されてすぐに出た『週刊文春』(9月28日号)の特集の見出しが、
「危急存亡の秋に 政治空白3週間」
でした。「秋」と書いて「とき」と読むのですよね。これが本来なのかな?
そして、たまたま読んでいた作家の塩野七生さんの『逆襲される文明~日本人へⅣ』(文春新書:2017、9、20)の中でも、
「古代のギリシアでもローマ時代でも、国家存亡の危機でさえも、未成年層は戦場に送り出さず、銃後の作業にも駆り出されなかった。」(192ページ)
というように、
「存亡の危機」
が出てきました。塩野さんも「存亡の危機」を使ってらっしゃるのですね。
もう定着していると見て良いでしょう。