新・ことば事情
6486「『筆算』のアクセント」
(2016年7月に書き始めました)
皆さんは、
「筆算」
をどういうアクセントで言いますか?
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「ヒ\ッサン」(頭高アクセント)
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「ヒ/ッサン」(平板アクセント)
でしょうか?私は、何の迷いもなく、
(1)「ヒ\ッサン」(頭高アクセント)
です。ところが!!『NHK日本語発音アクセント新辞典』を引いてみると、
「ヒ/ッサン」(平板アクセント)
しか載っていないのです。ビックリ!!
放送で「筆算」という言葉が出て来た場合にどのように読むか?を、用語懇談会でご一緒している各局の委員の方など、知り合いのアナウンサーにメールで聞いてみました。
その結果、関西のアナウンサーは全員、私と同じように「頭高アクセント」の「ヒ\ッサン」と読み、関東のアナウンサーは、「平板アクセント」で「ヒ/ッサン」と言う人が多い傾向が分かりました。
「ヒ\ッサン」(頭高アクセント)=7人
(朝日放送・Aアナ)「筆算」のアクセントの件、私も今まで「頭高アクセント」だと思っていた。放送原稿で出てきても、よほどの指摘がなければ今後も「頭高」で読むと思う。しかし、「筆算」という言葉、私は一度も放送原稿で読んだことはない!
(関西テレビ・Bアナ)私も迷いなく「ヒ\ッサン」(頭高アクセント)で読んでいた・・・『アクセント辞典』を引きもしなかったことを反省する。
(毎日放送・D氏)『アクセント辞典』は万全ではない。「ヒ\ッサン」=「頭高アクセント」以外、ありえないと思う。
(フジテレビ・E氏)私も、何の迷いもなく「ヒ\ッサン」(頭高アクセント)。
(フリーアナウンサー・I氏)迷うことなく「頭高アクセント」の「ヒ\ッサン」。「平板アクセント」はありえない。
(フジテレビ・J氏)私も迷うことなく「ヒ\ッサン」(頭高アクセント)。
(テレビ東京・K氏)私は道浦さんと同じで「ヒ\ッサン」と読んでいたし、変えるつもりもない。
「ヒ/ッサン」(平板アクセント)=6人
(NHK・C氏)「方言」かどうかは、よくわからない。個人的には昔からずっと「ヒ/ッサン」 と「平板アクセント」で言っていた。
(山形放送・F氏)私は「ヒ/ッサン」 と「平板アクセント」だが、東と西でアクセントが大きく違うものもあり、これも地域差があるのかなあと勝手に思っている。
(フジテレビ・G氏)「筆算」のアクセントは何の迷いもなく「ヒ/ッサン」 と「平板」。でも使わなくなりましたね、この言葉。
(朝日新聞・H氏)私は「平板アクセント」。「ヒ/ッサン」は、私の日常会話では、頭にアクセントを置かないと思う。いずれにしても実際に音で聞かないとよくわからない。「頭高」「平板」の区別がついていないかもしれない。新聞では、放送と違ってあまり意識していない。
(フリーアナウンサー・L氏)「筆算」に関しては、見た瞬間に浮かんだのは「平板アクセント」。『アクセント辞典』も「平板」だった。放送でも「平板」で語る。
(元NHK・M氏)「筆算」は、「頭高アクセント」は元々「東京方言アクセント」にもなく(語彙がない、といったほうがいいかもしれない)「平板アクセント」で処理している。2拍目が促音になるものについては、漢語は「平板アクセント」が優勢。といっても、「平板」「頭高」の両方を認めている(現実に流通している)ものもある。ある地域(兵庫、神奈川、静岡など)では「頭高アクセント」傾向が強いこともある。「ヒ」で始まる語は、発音上、ストレスを置いたほうが発生しやすいので「頭高アクセント」になることは、容易に想像できる。「筆者、筆致」などの「第2アクセント」が「ストレス性の『頭高アクセント』」と考えられる。
と、意見を頂いた方は「五分五分」といった感じです。
去年(2016年)12月の「新聞用語懇談会放送分科会」で、『NHK日本語発音アクセント新辞典』を編纂・出版したNHK放送文化研究所の研究員の方(塩田雄大さんですが)がいらっしゃったので、「摸試」と併せて伺ってみました。
『個人的には、「モ/シ」(平板アクセント)、「ヒ\ッサン」(頭高アクセント)だが、『NHKアクセント新辞典』では「模試」は「モ\シ」(頭高アクセント)のみ、「筆算」は「ヒ/ッサン」(平板アクセント)しか採用されていない。「頭高アクセント」で「モ\シ」と言うと「if」の意味の「もし」と紛らわしくないか。「水仙」が、これまでの「ス/イセン」(平板)に加えて「ス\イセン」(頭高)を採用するなら「模試」「筆算」も「モ/シ」「ヒ\ッサン」を採用しても良いのではないか。』
すると、以下のような回答でした。
(NHK・塩田氏)「2字漢語」は「頭高アクセント」になるものが多い。「筆算」は調査対象にならなかったと思う。「摸試」は、私も現役の高校生のときは「モ/シ」と「平板」で言っていた気がする。「水仙」の「第2アクセント」で「頭高」の「ス\イセン」を入れたのも、調査の結果による。従来の「ス/イセン」(平板アクセント)は81%、「ス\イセン」(頭高アクセント)は71%だった。
ということで、「筆算」に関してはあんまり直接的な回答ではなかったのですが、アクセント辞典上では、
「昔から『平板アクセント』」
ということなんでしょうね。