新・ことば事情
6452「足蹴り」
9月13日の日本テレビ『スッキリ!!』内のニュースを見ていたら、ある暴行事件の原稿で、
「足蹴りするなど」
と読んでいました。テロップは、
「蹴るなど」
となっていました。これは、
「足蹴(あしげ)にする」
という慣用句の「足蹴(あしげ)」の「蹴」を「けり」と読んだことから出た間違いではないか?と思っていたら、次に出たテロップでも、
「足蹴り」
と出て、ガックリ来ました。
「蹴る」のは「足」に決まっています。
「手で蹴る」「頭で蹴る」「肩で蹴る」「尻で蹴る」「腰で蹴る」「背中で蹴る」
とは言いません「蹴る」のは「足」です。まあ、あえて「足」以外の言葉を考えても、
「足の裏で蹴る」「足の甲で蹴る」「踵(かかと)で蹴る」「脛(すね)で蹴る」
ぐらいでしょうか?全部「足・脚」の部分であります。まあ「脛」は「蹴る」より「蹴られる」ことの方が多いでしょうが。とにかく、わざわざ「足蹴り」などと言う必要はないのです。
ただ、巷では「足蹴り」という言葉が使われていることは、認識はしています。しかし ニュース原稿に「足蹴り」を使うのはいかがなものか?と思うわけであります。
『広辞苑』で「足蹴」を引くと、意味が2つ載っています。
「あしげ(足蹴)」
-
足で蹴ること
-
転じて、他人にひどい仕打ちをすること
もしかしたら、この2番目の「転じて」という表現の方が「あしげ」の「1番目の意味」になり、それと区別して本来の「足で蹴ること」という「物理的な暴行」の意味をより強く指すために、
「足蹴り」
という新しい言葉が生まれた、と考えるべきでしょうか?また、プロレスの技で、
「跳び蹴り」
という言葉があることも「足蹴り」という言葉が出て来やすくさせているのではないでしょうか?
と思って、『精選版日本国語大辞典』を引いてみると、なんと!
「あしげり(足蹴)」
が立項されているではありませんか!
*「あしげり(足蹴)」=足で蹴ること。あしげ。*彼女とゴミ箱(1931)<一瀬直行>ゴミ箱「穏順(おと)なしい芥箱(ごみばこ)は男の足(アシ)げりや、吸殻や、唾を我慢しなければならない」
うーん、用例は「昭和初期」だけど、この作家、知らないし、単なる間違いなのでは?と思ってしまいますね。(「ウィキペディア」によると、「一瀬直行(いちのせ なおゆき)」さんは、「(1904年2月27日―1978年11月14日)日本の詩人、小説家。 東京府東京市浅草区浅草吉野町一丁目(現在の東京都台東区今戸一丁目)生まれ。大正大学中退。在学中より詩作を発表。1938年「隣家の人々」で第7回芥川賞候補。」という方でした。)
しかし、『広辞苑』『デジタル大辞泉』『明鏡国語辞典』『新明解国語辞典』『旺文社国語辞典』『現代国語例解辞典』『岩波国語辞典』『新潮現代国語辞典』には、「あしげり」は載っていません。
ただ!新語をいち早く取り入れることで知られる『三省堂国語辞典』は、「あしげり」を載せていました!
*「あしげり(足蹴り)」=(格闘技で)足でけること。
そうか「格闘技」、プロレスとか総合格闘技とか、そんな世界で使われていた表現が、若者から広がって来ているのかな?それが「ニュース」の世界にまで入って来たのではないか?というところですかね?
うーん、でも、ニュースでは使ってほしくない表現です。読み間違いのように感じてしまいます。