新・ことば事情
6447「PAC3の射程」
<去年(2016年)の2月に書き始めました。>
2016年2月8~25日に行われると通告された、北朝鮮の人工衛星と称するミサイル発射に備えて、2月4日、迎撃ミサイル「PAC3(パックスリー)」が、石垣島と宮古島に配備するために船で輸送されました。
そのニュースを、お昼の「ストレイトニュース」を見ていて、ふと、疑問が。
「PAC3って、どのぐらいの射程があるのだろうか?」
あまりそういった話は耳にしません。調べてみました。(あ、よく使われる「射程距離」という言葉は「重複表現」です。「射程」の中に「距離」の意味が入っているので。)
*『PAC-3ミサイル』
全 長:5.2m
翼 幅:0.48m
弾体直径:0.25m
重 量:315kg
最大射程:20km
最大射高:15km
最低射高:50m
メーカー:ロッキード・マーチン社他
ということは、「射程」は「20km」しかないのか。
近くに来ないと当たらないから、撃てないんだ!着弾の「ターミナル段階」で迎撃するんですね「PAC3」も「THAAD(サード)」も。
ところで、北朝鮮の、というか一般的に「ミサイルのスピード」は、どのぐらいなんでしょうか?つまり、
「最大射程である20km飛ぶのに、何秒かかるか」
ですね。普段、私たちが乗る「飛行機」の速度が「時速900キロ」ぐらいですから、それよりも速いでしょうね。仮に「マッハ1」と想定すると、
「マッハ1=音速=秒速330m」
だから、
「330(m)×60(秒)×60(分)=118万8000m」
ということは、
「時速1188km」(≒1200km/h)
ぐらいかな。「マッハ1」は、飛行機(旅客機)より少し早いね。
調べてみると、「弾道ミサイル」は「マッハ1」よりも格段に早かったのです!
*「弾道ミサイル」→「約7.0km/s」=「2万8000km/h」
=「マッハ23」
そして、
*「F4ファントム戦闘機」→「マッハ2.4」=「2400km/h」
*「銃弾」→「58km/s」=「209km/h」
だそうです。圧倒的に「弾道ミサイル」は速いんですね!「ピストルの弾」の100倍、速い!「F4戦闘機」の10倍以上、「旅客機」の24倍の速さ!
「時速2万8000km」のミサイルが「20km」の射程に入ってから、目的地に落ちるまでの時間は、
「20(km)÷28000(km/h)=0、000714時間=0、04285分=
2、5714秒」
ということですね。つまり、
「2、6秒で着地」
します。「弾道ミサイル」と「PAC3」が同じ速さだとすると、「着地予想時刻」の
「2、6(秒)×2(=5、2秒)前に『PAC3』を発射」
すると、着地点である宮古島や石垣島から20kmの地点で撃ち落とせるということか。当たれば、の話ですが。
と、ここまでを「去年の2月」に書いて1年半。
もう北朝鮮は「人工衛星」なんてカッコつけていません。堂々と「弾道ミサイル」と言っています。マズイよなあ、これ。
しかも北朝鮮の「大陸間弾道ミサイル・火星14型」は、
「最高高度550km」
を飛んだということは、これは完全に、
「宇宙空間」
ですよね、ミサイルが飛んでいるのは。そもそも「弾道ミサイル」とはそういう物ですが。それを撃ち落とせるのか?昔のレーガン大統領の、
「スターウォーズ計画(SDI)」
じゃないですか。
で、現状は「PAC3」は、弾道ミサイルがかなり近付かないと撃ち落とせないから、もっと「高高度」で撃ち落とせる、
「SM-3」(スタンダード・ミサイル3)
や、
「イージス・アショア」(最大高度1200km)
の配備へというニュースが流れています。「イージス・アショア」は、すぐには配備できないですが。
「SM-3」の迎撃高度は、資料によってまちまちなので、どれが本当かよくわかりません。
米・ロッキードマーチンと三菱重工業が共同プロジェクトとして開発中の、
「SM3ブロックIIA」
は、飛行速度が「マッハ15」(秒速4.5km)で、中距離弾道ミサイルを十分に迎撃できると評価されているそうです。射程は「2500km」。
少し古いデータですが、一応、護衛艦「こんごう」は「2007年2月」の「SM-3」の発射試験で、大気圏外において模擬弾道ミサイルを海上から迎撃することに成功しているそうです。(2008年3月『防衛省 弾道ミサイル防衛』より)
また、「SM-3」の射程は、
「THAAD」(射程200km、最大迎撃高度140km)
よりも、はるかに長く、日本国内の2か所に配備すれば、日本全域を防御できるそうです。
現在「イージス・アショア」は、米・ハワイとルーマニアに配備されていて、北欧防衛のために2018年にポーランドにも配備する計画だそうです。
なんだか、とっても物騒です・・・。
ハッ!!きょうは「9.11」から16年だ・・・。
(追記)
新しく出て、今読んでいる、
『校閲記者の目からあらゆるミスを見逃さないプロの技術』(毎日新聞校閲グループ、毎日新聞出版:2017、9、5)
の93~94ページによると、毎日新聞では「THAAD(サード)ミサイル」のことは、
「終末高高度防衛(THAAD)ミサイル」
と表記することになっているそうです。「終末」というのは、着弾直前の、
「ターミナル段階」
の「ターミナル」を訳したんでしょうが、
「ターミナルケア」=「終末医療」
という訳がイメージが強いので、もう日本の命運が「終末」みたいで、嫌ですね。
それなら「ターミナル」のままでいいのでは?思いますが、いかがでしょうか?
(2017、9、13)