新・ことば事情
6436「ご懐妊2」
「皇室の女性」が妊娠すると、
「懐妊」「ご懐妊」
という言葉が使われます。あまり一般人には使われません。
ただ、時々「パンダ」には使われるようですが。
「懐妊」というのは「敬意表現(敬語)」なのでしょうか?
また、皇室の場合は「ご」を付けて「ご懐妊」とするべきなのでしょうか?
時代劇の「大奥」あたりでも使われているようですね。
でも「懐妊」が「敬語」ならば「ご懐妊」は「二重敬語」にならないか?
また、皇室に、
「ご妊娠」
とは言いませんよね。一般人にも「ご妊娠」とは言いません、「妊娠」は「ご」という「美化語の接頭辞」が付きにくいのでしょうか?
きょう(9月5日)の「ミヤネ屋」で、英国王室の「キャサリン妃」が「第3子を妊娠」したというニュースで、
「キャサリン妃第3子懐妊」「ご懐妊」
というサイドスーパーが発注されていました。私は、
「『外国の王室には敬語を使わない』という原則から言うと、『ご懐妊』はおかしい」
と気付いて、「ご」を取った「懐妊」にしようと思って連絡したところ、スタッフから、
「『懐妊』は『敬語』だと思ったので、全部『妊娠』でいくことにしました!」
という声が返って来ました。
毎日新聞の9月5日夕刊は、見出しが
「英キャサリン妃 第3子懐妊」
で、本文が、
「第3子を妊娠したと発表した」
でした。
こういう場合は、「言葉の歴史」を調べて見ましょう。つまり「妊娠」と「懐妊」の用例はどちらが古いのか?『精選版日本国語大辞典』の用例を見てみるんです。
すると「懐妊」は、
*「懐妊・懐姙」=子をはらむこと。みごもること。妊娠。懐胎。受胎。懐孕(かいよう)。
とあり、用例は、まず「漢文」で出て来ました。
★「家伝」(760年頃)上「汝児懐姙之付、与(二)常人(一)異、非凡之子、必有(二)神功(一)」
なんと「8世紀」!古い!漢文ですから「懐妊」(懐姙)は「漢語」ですよね。
もう一つ用例が。こちらは漢文ではありません。
★「平家物語」(13c前)三「御悩(ごなう)ただにも渡らせ給はず御懐姙とぞ聞こえし」(晉諸―何曾伝)
これも13世紀と古い!「平家物語」で「懐妊」は使われていた言葉なんですね。
「懐妊」の最初の語意説明に出て来た「妊娠・懐胎・受胎・懐孕(かいよう)」の用例についても、どれが古いのか、調べてみましょう。(意味は省略)。
*「妊娠」=「浮世草子・世間旦那気質」(1773年)
*「懐胎」=「源平盛衰記」(14c前半)
*「受胎」=「幸若・硫黄之嶋」(室町末―近世初)、「刑事訴訟法」(1890年)
*「懐孕(かいよう)」=「律」(718年)、「翁問答」(1650年)
ということで、これらの中では「妊娠」が「一番新しい言葉」であるようです。
そういった意味では、「伝統ある言葉」の方が、
「敬意が高く感じられる」
ということなのではないでしょうか?
「婉曲表現=敬意が高い」
ということでは?「妊娠」は「医学用語」でもあるし、かなり「直接的な表現」なのでしょうね。
「平成ことば事情40 雅子さま、懐妊の兆候」「平成ことば事情268ご懐妊」「平成ことば事情2478紀子さま、ご懐妊・懐妊」もお読みください。全部「皇室」ですね。