新・ことば事情
9月29日の日本テレビ『スッキリ!!』で、アニメ映画『君の名は』がハリウッドで実写化されるというニュースを伝えた際に、森アナウンサーが、『君の名は』の紹介で、
「記録づくしの大ヒット」
と言っていた(原稿を読んでいた)のですが、これは間違いですね。正しくは、
「記録ずくめの大ヒット」
です。
この「づくし」と「ずくめ」は、よく間違われます。そして間違う場合は、ほぼ全て、
「『ずくめ』と言うところを『づくし』と言い間違っている」
ケースです。ここで、「づくし」と「ずくめ」の意味の違いを、もう一度確認しておきましょう。過去にも書いているはずですから、検索すると、
・平成ことば事情3669「異例づくしか?異例ずくめか?」
・平成ことば事情3871「『づくし』と『ずくめ』」
で書いていました。「平成ことば事情3871」を書いたのが「2010年2月」ですから、もう7~8年経つわけで、その間にまた、違いが知らない人が増えたのかな?
一部、以前書いたものを再掲します。
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「づ」「ず」「じ」「ぢ」は「四つ仮名」と呼ばれるもので、使い分けが難しいのですが、
「黒ずくめ」は「ず」
「黒づくし」ならば「づ」
なのです。漢字で書くと、両方とも、
「尽くし」
なのですが・・・
『新聞用語集2007年版』によると、
「心尽くし(こころづくし)」
「黒尽くめ(くろずくめ)」
「結構尽くめ(けっこうずくめ)」
となっています。
以下は、過去2回も載せた『三省堂国語辞典』編纂者で、早稲田大学非常勤講師の飯間浩明さんのコメントです。
『『四つ仮名は、「現代仮名遣い」の方針にかかわることで、かなり人為的な、もっといえば恣意的なものですね。「心づくし」に対して、「黒ずくめ」「力ずく」になる理由は、「つくす」や「つく(つきる)」とのつながりが感じられるかどうかによります。漢字で書くと、両方とも、「尽くめ」「尽くし」なのですが、「~づくし」は動詞「尽くす」の意識が残っているのに対して、「~ずくめ」「~ずく」は、もはや動詞とのつながりが感じられなくなっているというわけです。実際、「ずくめ」「ずく」の語源が直感的に分かる人は少ないでしょう。
『日本国語大辞典』によれば、「~ずくめ」は「ヅク(尽)に接尾語メの付いた語」とありますが、語法としてはイレギュラーです。「~ずく」については語源の説明もありません。実際のところ、「尽くす」から来たのか、「尽く(尽きる)」から来たのかも(私にとっては)あいまいです。「出ずっぱり」とか「つまずく」なども、「出突っ張り」「爪付く」という語源を考えれば「出づっぱり」「つまづく」でよさそうなものですが、語源が忘れられたために、本則は「ず」を使いますね。これらと同様でしょう。しかし、それなら「こぢんまり」は「小+ちんまり」から来ていることを意識している人は少ないと思いますが、なぜか現代仮名遣いでは「こじんまり」とはしないのですね。恣意的だと私が思うのは、こういう点です。』
飯間さんは、
『実際、「ずくめ」「ずく」の語源が、直感的に分かる人は少ないでしょう。』
とおっしゃっているのですが、言葉の仕事に就く人は、それが直感的に分かるように訓練・修業を積んでほしいと、私は思います。そして、
「わからなかったら、すぐに調べる・確認する」
この作業がすなわち「実地訓練」であり、「修業」だと思います。
「日々是修業」です。