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『道浦TIME』

新・読書日記 2017_095

『冷戦とクラシック~音楽家たちの知られざる闘い』(中川右介、NHK出版新書:2017、7、10)

著者の中川さんから、直接お会いした時に贈呈して頂いた。ありがとうございます。

380ページ余りの分厚い新書。話が話だけに、カタカナの人名・地名などが多いので、なかなか頭に入って来なくて、読むのに、大変時間がかかった。が、内容は濃い。

いつも思うのだが、よくこれだけの歴史の流れを、頭の中で整理できるものだなと。すごいです。

「コンクールの話」が出て来るという点では、直木賞作品・恩田陸の『蜜蜂と遠雷』と同じだか、全然違う。『蜜蜂と~』が「個人のアーティストの闘い」であったが、こちら『冷戦と~』は、「国際政治の中でのコンクール」の存在に光を当てている。

郵便学者の内藤陽介さんが「切手はメディアである」と言い、「切手」を国家が外交手段として、統治手段として使っていたことを明らかにしているが、中川さんは「音楽コンクール」もまた社会主義国家にとっては、それと同じような「外交・統治手段」であったことを明らかにしているなと思った。

「あとがき」を読むと、冷戦時代のスパイを描いたスペルバーグ監督の映画『ブリッジ・オブ・スパイ』を見て、その中でショスタコーヴィチの『ピアノ協奏曲第二番』が流れるのを聞いて「ベルリン・冷戦・ショスタコーヴィチ」の三題噺を思いついて、膨らませたものだと。随分、膨らみましたね。

そのほか、いろいろ感じたこと、いくつか。

1989年7月16日、ソニーの大賀典雄会長(当時)と、ザルツブルクの自宅で会っている時に心臓発作で亡くなったカラヤン。もし、当時「AED」があれば、カラヤンは助かったのではないだろうか?(322ページ)

*チャイコフスキー・コンクールはいつの間にか亡命音楽家養成機関となっていた。(298ページ)=「音楽」は世界に開かれているので、本来は国境がない。優秀な音楽家であればあるほど、人間が人為的に作った「国家」という線引きを超えるのだろう。

*世界最強のソ連共産党をしてもロシア正教を根絶させることできなかった。それでも、ソ連の人びとはよほど信仰が強くない限りは教会で葬儀を行うことはなかった。だがムラヴィンスキーは遺言でロシア正教会での葬儀を望んだ。(310ページ)=「宗教・音楽・国家」の「三題噺」でもある。

などなど、とても勉強になりました。

後半に、誤植等、気になる表記が幾つか。

253ページ9行目 ×「ソ連政府による協力なコネがあった」→◯「強力なコネ」

265ページ5行目 ×「十五間」→◯「十五年間」

278ページ10行目 △「大統領選で再選したニクソン」

→○「大統領選で再選されたニクソン」「大統領選で再選を果たしたニクソン」

285ページ14行目 「審査委員長でもあるカジミエシ・コルド」と、

288ページ7行目 「審査員長のコルド」※肩書の表記不統一


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(2017、8、20読了)

2017年8月28日 12:16 | コメント (0)