新・ことば事情
6399「投手という人種」
<2009年9月16日に書き始めました。>
フジテレビアナウンサーの三宅正治氏著『言葉に魂(おもい)をこめて』という本を読んでいたら、こんな表現が出て来ました。
「『投手という人種』は基本的に頑固な人間が多いんです。そうでなければ、あのマウンドの上でたった一人、何人ものバッターを相手に戦う事などできないのかもしれません。」(220ページ)
この中の、
「投手という人種」
に引っかかりました。よく耳にする表現ではありますが、考えてみると、なかなか奥が深い。つまりこれは、
「『投手』か『打者』かで、考え方が変わる」
ということですよね。
****************************************と、ここまで書いてほったらかしで、8年経ちました。続きを書きます。
例えばサッカーでも、「攻撃」を担当する「フォワード」と、「守備」が中心の「ディフェンダー」、さらにはゴールを守る「ゴ-ルキーパー」では、当然立場が違いますから、考え方も違うでしょう。それを、
「人種が違う」
とまで言ってしまうかどうか。もちろん「比喩表現」であり、
「人種が違う」=「考え方や気質の基本が違う」
ということを言いたかったのでしょう。多くのプロ野球選手に接した取材体験などから醸成された「事実」なのだと思います。
ただ、私達が表現するときは、なかなか「人種」という比喩は使いにくいなと思って、8年前にメモを残しておいたということです。その後、あまりこの言葉には、お目にかからない気がします。
あ、忘れてた。
この言葉が気にかかってすぐの頃に、「ミヤネ屋」で「夕刊紹介コーナー」をやっていた、「当時入社5年目ぐらいの若手男性アナウンサー」
に対して、メーン司会の宮根誠司さんが、CMの間に
「それで君は、どんなアナウンサーになりたいん?」
と質問をしたのです。それに対して、そのアナウンサーは、
「僕は、ニュースが読めるアナウンサーになりたいんです!」
と言ったのです。たぶん「報道志望・キャスター志望」ということだったんですかね。
それに対して宮根さんは、少し厳しい表情で、こう言いました。
「君な、今のままやと、『敗戦処理投手』やで」
若手アナウンサーは返す言葉もなく、
「はあ・・・」
と言っただけでした。これらは「CM中だったので、もちろん放送では流れていませんが、スタジオにいた私を含めた出演者やスタッフの耳には届いていたと思います。結構きつい言葉でしたが、それよりもそれを聞いて私が思ったのは、
「宮根さんは、アナウンサーを『ピッチャー』だと考えているんだ!」
ということです。だから、たぶん「局アナ」も、
「先発ローテーション」「中継ぎ」「抑え」
というように考えているのではないか?
それに対して、私はそれまで、
「(局)アナウンサーは、『バッター』だ」
と思っていました。だから、「4番バッター」ばかり集めてもチームは勝てない。「1番バッター」から「9番バッター」までバランス良く、それぞれみんな個性が違い役割も違うバリエーションに富んだアナウンサーの集まりが「アナウンス部」という部署だと、考えていました。そこで、
「打順を組む」「守備位置を考える」
のが、アナウンス部の管理職の仕事だと考えていましたが、宮根さんは「投手」と考えていたのですね。これは「目からウロコ」が落ちる体験でした。
しかしそれは、「フリーのアナウンサー」と「局アナ」では違うのかもしれません。
「ピッチャー」
だと考えると、自分がどういったタイプのアナウンサーであるのかを、考えなければなりませんね。そして目指すのは、やはり、
「先発・完投型のエース」
なのでしょうね。
フリーのアナウンサーは、同じように考えているのか?
先輩のフリーアナウンサーである羽川英樹さんにこのことについて尋ねたことがあります。
「羽川さんは、アナウンサーの分類は『投手型』だと思っていますか?それとも『打者型』だと思っていますか?」
その際の羽川さんの答えは、
「僕は『打者型』だと思う」
でした。人それぞれ、考え方は違うのだなあと。
「フリー」か「局アナ」かで、絶対に区別されるという考えではないのだなと思いました。