新・ことば事情
6398「警官か?警察官か?」
6月30日に開かれた「新聞用語懇談会 放送分科会」で、こんな質問を出しました。
「福岡・小郡市の母子3人殺害事件で逮捕された福岡県警の警察官・中田充容疑者。この事件に際して、NNN系列のFBS福岡放送に対して福岡県警から「『警官』というのは『蔑称』なので、『警察官』と呼んでくれ」という要請があったそうで、『ミヤネ屋』では、今回に関しては(「警官」という「通称」は使わずに)『警察官』を使っています。『警官』は『通称』ではありますが、『蔑称』ではないと思うのですが、各社にはそのような申し入れがありましたか? もし、あったとしたら、どのように対応されていますか?
ちなみに『広辞苑』には「警察官の『通称』」と書かれています。また『新明解国語辞典』には「狭義では『巡査』を指す」とあります。「巡査」は「一番下の階級」なので、もしかしたら警察の中では「警官」は「蔑称」として使われているのかもしれません。ただし、中田容疑者の階級は「巡査部長」。
(MBS)事前に『刑事弁護人のための隠語・俗語・実務用語辞典』などを資料としてお配りしたが、それらの記述も全部「警察官」だった。俗語・隠語では東京は「マッポ」、大阪は「ポリ(さん)」。また警察の現場では「警察官」と言う。
(テレビ東京)「警官」は「蔑称」という意識はある。過去の原稿(2004年~ )を検索したところ、「警官」=1324件、「警察官」=2264件だった。海外者の外信記事で「テロで警官が」などと「警官」がよく使われていた。「警官隊」は「警察官隊」とは言わず、そのまま「警官隊」。
(テレビ朝日)「警官」は「俗称」だから、ストレートニュースの原稿では使わない。サイドスーパーでは、文字数を減らすためにたまに「警官」が出る。ドラマのタイトルやセリフでは「警官殺し」などと出るが、改稿要請はしない。
(共同通信)決まりはないが、国内のニュースでは「警察官」としている。海外の事件は「警官」。例えば「パリで警官3人が撃たれ」など。「警官起訴」など、見出しでは(文字数が減るので)便利。ここ3か月での原稿データベース検索では、「警官」=230件、「警察官」=497件。「警官」は「外信記事」が多い。なぜ外信記事に「警官」が多いのかを考えてみたが、『リーダーズ英和辞典』(研究社)は「警察官」と書いてあるが、『ジーニアス英和辞典』(研究社)は「警官」としか書いていない。もしかしたら、英和辞典の日本語訳を見て記事を書くから「警官」になっているのではないか?(※『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)も、日本語訳は「警官・巡査」だった。)
(日本テレビ)今回の事件では「警察官」だった。社会部に聞いたところ「今回、報道への申し入れはなかったが、基本的に『警察官』を使っている」とのことだった。「警官」が使われているのは「海外ニュース」や、「警官2人で巨大スッポンをつかまえた」などの「ヒマネタ」ニュース。しかし「警官」が「使用不可」ではない。
(フジテレビ)入社時に「『警察官』が正式名称だ」と教えられた。社会部の経験のある記者の原稿やタイトルは「警察官」。デスクに社会部記者経験がないと「警官」とすることもあるようだ。ただ「悪いことをした場合」は「警官」とすることも・・・。基本は、正式名称ではないので「警官」は使わない。
(ytv)直木賞作家・佐々木譲の推理小説で『笑う警官』というのがあったが・・・。
(テレビ朝日)佐々木譲の作品は、全て「警官」だ。(『警官の紋章』『警官の血』『警官の条件』)また、以前「獣医」と言ったら、名古屋の獣医から「正式名称は『獣医師』だ」とクレームが付いたこともあった。
(ytv)『獣医ドリトル』という漫画&ドラマもあったと思うが・・・(クレームはなかったのか?)
というようなやり取りがありました。
その後6月9日の「読売新聞」を確認したら、1面の記事の見出しは、
「警察官の夫を逮捕」
で「警察官」になっているのですが、社会面の見出しは、
「『まさか警官の夫が』住民ら逮捕に衝撃」
というように、「警官」が使われていました。
正式名称は「警察官」、略称・通称は「警官」は間違いないですが、その「警官」という言葉に対する意識は、警察内部と外部では違う事は間違いないようです。