新・ことば事情
6387「能面のような」
「能面のような」というと「無表情」のことだが、意外といろいろある。
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と、「2011年11月27日」に1行だけメモして、ほったらかしになっていました。
で、6年経って『だめだし日本語論』(大田出版)という、橋本治氏と橋爪大三郎氏の対談本を読んでいたら「日本語の壊し方~室町以後」の項目(170ページ~)に、
「能」
に関する話が出て来て、6年ぶりにこの「能面のような」について考え付いたわけです、電車の中で。以下がその考察です。
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「能面のような」という比喩表現は、いわゆる「無表情」(表情がないの)ではなく、
「表情が1つしかない」
ということではないか?だから「張り付いた笑顔」も「能面のよう」と表現されます。「無表情」は、
「"喜怒哀楽"のない『プラスマイナス・ゼロ』の表情」
ですが、
「喜怒哀楽"のうちの『1つしか表情がない』もの」
も「無表情」と言えるのではないでしょうか。
そういう意味で、
「表情の"変化がない"のが"無表情"」=「能面のような」
と言えるのではないか。つまり、
「2つ以上の表情がない場合」=「『ゼロ』か『1』のどちらかしか表情がない場合」
を指して「無表情」と言えるのではないでしょうか?
6年間熟成して、突然、閃いた答えです。
で、ここで初めて辞書を引く、と。「能面のよう(な)」は、
・『広辞苑』=無表情なさま。また、顔の端麗なさまにいう。
・『明鏡国語辞典』=無表情な顔、端麗な顔のたとえにも使う。
・『精選版日本国語大辞典』=顔の端麗なさま、また表情に変化がないさまにいう。
・『デジタル大辞泉』=無表情、また、顔だちの端麗なさま。
・『現代国語例解辞典』(能面)=能楽に用いる仮面。おもて。端麗な顔、無表情な顔のたとえにもされる。
『新明解国語辞典』と『岩波国語辞典』には載っていませんでした。
『三省堂国語辞典』は、見出し語にはありませんでしたが、「能面」の用例として、
「能面のように無表情な人」
とありました。そして「無表情」には、
「表情(の変化)がないようす」
とありました。問題は「能面」ではなく「無表情」の意味だったのか!私は、
「無表情」=「表情がない」
だと思い込んでいましたが、「表情がない」のではなく、
「表情"の変化"がない」
だったのですね!目からウロコが落ちました!(去年は「ウロコ「」じゃなくて「網膜」が落ちましたが・・・)