新・ことば事情
6339「『過重労働』と『過剰労働』」
「働き方改革」が取りざたされる最近、よく、
「過剰労働」
という言葉を目にします。先日読んだ『残業税』(小前亮、光文社文庫)という小説でも出て来ましたし、今読んでいる『「おもてなし」という残酷社会』(榎木博明、平凡社新書)は、そのサブタイトルが、
「過剰・感情労働とどう向き合うか」
で、「はじめに~なくならない過労死」では、
『「過剰労働」や「感情労働」といった労働現場の悲惨な実態をあらわす言葉が、マスネディアを賑わせている。』
で始まります。よく出て来るのです。違和感があります。これは従来、
「過重労働」
だったはず。「過剰労働」は新語でしょうか?
グーグル検索では(5月17日)
「過重労働」=41万2000件
「過剰労働」= 6万8800件
と、まだ従来の「過重労働」のほうがたくさん出て来ます。国語辞典を引いてみると、
『デジタル大辞泉』『明鏡国語辞典』『新明解国語辞典』『旺文社標準国語辞典』『岩波国語辞典』の「過重」の例文で「過重な労働」と出て来ますが、「過剰労働」は載っていません。
『三省堂国語辞典』で「過剰」の2番目の意味である、
「やりすぎること」
で「過剰」が最初に付く例文は、
「過剰警備」「過剰防衛」「過剰敬語」
の3語でした。ちなみに1番目の意味は
「あまるほど多いこと」
で、こちらの例文は、
「自意識過剰」「人口過剰」
でした。
ネット検索した中で厚生労働省のサイトでは、
『厚生労働省では、「過労死等防止啓発月間」の一環として「過重労働解消キャンペーン」を11月に実施し、長時間労働の削減等の過重労働解消に向けた取組を推進するため、使用者団体・労働組合への協力要請、リーフレットの配布などによる周知・啓発等の取組を集中的に実施します。実施期間 平成28年11月1日(火)から11月30日(水)までの1か月間』
というのがあり、
「過重労働」
を使っているようです。
思うに、「過重労働」は、同音の「荷重」のイメージもあって、
「自分の肩に食い込む、重すぎる仕事」
というイメージがありますが、「過剰労働」は、
「単にデータ上、残業時間が多すぎること」
というイメージがあります。
「働き方改革」で、とかく「労働時間」「残業時間」にばかり目が行くので「過剰労働」という言葉が生まれて来たのではないでしょうか。本当は「仕事の内容」にも注目しないといけないのですがね。