新・ことば事情
6326「vs(バーサス)」
「○○対××」
の「対」を表す、
「vs」
の読み方に関して、以前、新聞用語懇談会・放送分科会で話し合ったことがあります。その際は以下のような討議がなされました。
【2015年12月】
(テレビ朝日)
<A>画面表記での使用になんらかの『ルール』(口頭での指示や了解事項を含む)を設けていますか? ⇒たとえば、「使用はスポーツ系番組やスポーツニュースに限る」「一般の報道ニュースでは乱用しない」「見出し、メインタイトル、サイドタイトルに限る」など。
<B>『表記』はどうしていますか? ⇒「vs.」は本来小文字で「省略符(ピリオド)」が必要ですが、「大文字(前後の文字と同じ大きさということ)でも可」としていますか。「省略符は不要ですか必要ですか」。
<C>『読み』はどうしていますか? ⇒英語の発音はバーサス(versus ヴァーサス)ですが、この読み方は聞いたことがありません。ふつうは「○○"対"××」と読むでしょう。ブイエス(ヴイエス)と読むこともありますか。局のアナウンサーだけでなく、外部のリポーターやナレーターにどのように読ませているでしょうか。テレビ朝日の報道では、表記も読みもルールはない。ただ、最近よく出て来るものの、そもそも「vs.」は「日本語ではない」(外来語でもない)と思うのだが・・・・。
(ytv)報道局としては決めていないが「ミヤネ屋」では「vs.」と「ピリオド」を入れるように指導している。「大文字」か「小文字」かは決めていない。その場合、読みは「バーサス」が多いが、「対(たい)」と読むこともある。フジテレビの「VS嵐」は「ブイエス」だが。「ブイエス」は、少し古い感じがする。アナウンス部で聞いたところ、
「スポーツ分野なら、仮に『○○vs.××』と原稿表記があっても、きっと『対(たい)』と読み替える。」
「ytvスポーツ原稿では『○○vs. ××』の表記は、ほとんど見たことがない。『○○-××』はある。『対』と読む。」
「バラエティーなど制作番組の場合、前後の文脈に違和感がなく、またディレクター要請があれば『対』には拘らない。その場合『vs.』を『バーサス』と読む」
「『ブイエス』と読む」
というように、意見は分かれた。
(MBS)12月6日(日)夜10時から放送の『林先生の初耳学』という番組の事前チェックで「さかなクンVS ○○」のが出て来た。大文字でピリオドなし。ナレーターの読みは「バーサス」。演出上、インパクトがあるので使うこともある。
(TBS)話は少しそれるが、アルファベットを使った表記と読みに関していうと、「AM」「PM」「am」「pm」を大文字か小文字か、ピリオドを打つかどうか、また「時刻の数字」を「前」にするのか「後ろ」にするのかなどの問題がある(「PM5:00」か、「5:00PM」か)。「前」か「後ろ」かに関しては、正しい表記は「5::00PM」だが、日本では「午前・午後」の代わりに「AM・PM」を置くことが多いので、仕方なく「PM5:00」も認めることにした。また、「Xmas」「Xマス」なども出てくるが、本来は間違いの「'」(アポストロフィー)が付いた「X'mas」も、仕方がないので認めることにした。さらに、毎年11月第3木曜解禁の「ボジョレ・ヌーボー」についても、従来の「ボジョレ・ヌーボー」という表記以外に、標品名(固有名詞)でなくても「ボジョレー・ヌーボー」など異なる表記もOKにした(2015年10月より)。なお、「ハロウィーン」については、手を付けていない。発音は「ウィ」にアクセントがある「ハ/ロウィ\ーン」だと指導している。
(MBS)その話は今、初めて聞いた!MBSは、今「解禁」と言われたものは「全て禁止」にしている。きょう、この会議の後、JNNの用語委員会があるので、その席で話したい。
(日本テレビ)日本テレビでは、英単語のドット(ピリオド)などは、全部、省くことになっている。この場合「読み」は「対(たい)」。大文字か小文字かは、決めていない。
(NHK)ルールはないが、「vs.」は省略形なので、ピリオドを打つことになっている。少し古い調査だが、25年前(1990年)に1800人を対象に「VS」の読み方を尋ねた調査では、「ブイエス」=48%、「たい(対)」=40%、「バーサス」=4%だった。当時からは、随分状況は変わっていると思うが。
(読売新聞用語幹事)もしかしたら「vs.」は使っているかもしれない。
(テレビ大阪)「vs.」も使うが、「G大阪×広島」「阪神×広島」のように「×」を使うことが多いように感じる。
(MBS)「×」も使うが、「G大阪―広島」のように、「-」もよく使う。スポーツアナウンサーに聞いたところ、「vs.」は「対(たい)」と読むが、制作番組などでDJ風に「バーサス」と読むこともあるとのこと。
(WOWOW)決まりはないが「VS」と表記している(ピリオドなし)。大文字の場合も小文字の場合もある。読みは「対(たい)」だが、番宣でナレーターさんが「バーサス」と読むこともある。
(テレビ朝日)ストレートニュースでは「vs.」は使わないのか?
(フジテレビ)本記では使わないが、タイトルなどでは「自民vs民主」のように使っている。(小文字・ピリオドなし)
【2016年6月】
(毎日放送)「vs.」あるいは「vs」について東京支社制作番組では表記に「.」を必ず入れるよう決めました。読みは「バーサス」が基本ですが「ブイエス」「対」も可としました。
【VS】 Veterinary surgeon 家畜の外科医
【VS.】 Versus. 対
【V.S.】 vide supra 上を見よ
このほか、「.」の有無で、全く場所が異なる事例。
「世界の日本人妻は見た!(J系火曜日)」で過去あった表記
ロサンゼルスを LA(ピリオドなし)表記(修正してOA)
【LA】Louisiana(ルイジアナ)
【L.A.】Los Angeles
で、きのう(5月7日)の日本テレビ『世界の果てまでイッテQ』の中で出て来た、
「ジョンアンリラVS内村」
という、タイで行われたお祭りで、コブラ(蛇)の「ジョンアンリラ」と、タレントの「内村光良」さんが、水泳で対決するという企画。この「VS」を男性ナレーターが、
「バーサス」
と読んでいました。「VS」は「大文字」で、「.」(ピリオド)は、ありませんでした。
また、5月10日の読売新聞ラジオ・テレビ欄に載った「ミヤネ屋」の番組紹介文は、
「注目VS北 韓国新大統領」
云々(うんぬん)とありまして、文章の意味は分かりにくいのですが、それは置いておいいて、「VS」は、
「大文字・半角・ピリオドなし」
でした。
「平成ことば事情1146VS」も、お読みください。