新・ことば事情
6287「安倍昭恵夫人」
3月23日、「森友学園問題」で籠池理事長の証人喚問が行われましたが、それに対して安倍首相の夫人・昭恵さんが、自身の「フェイスブック」で反論しました。しかし、どうも本当に本人が書いたのかどうか疑わしい感じ。いつもの文章とあまりにも文体が違い、「まるで官僚が書いたかのような上手な文章」でした。
そんな安倍昭恵夫人とは、どんな人物なのか、3月29日「ミヤネ屋」でも特集しましたが、その内容とは別に「言葉の問題」で言うと、そもそもこの、
「昭恵夫人」
という表現、ちょっとおかしいのではないか?とスタッフから質問を受けました。
たしかにちょっとおかしいですね。本来は、
「安倍晋三夫人・昭恵氏」
あるいは、
「安倍昭恵・安倍晋三首相夫人」
で、これを略すと、
「安倍昭恵・首相夫人」→「安倍昭恵夫人」→「昭恵夫人」
となったのではないかと思われます。
これまでにも似たような例があります。元・阪神タイガーズの野村克也さんの夫人の
「沙知代さん」を、
「(野村)沙知代夫人」
と呼んだり、鳩山由紀夫・元首相の夫人・「幸(みゆき)さん」を、
「(鳩山)幸夫人」
と呼んでいた例があります。過去の「新聞用語懇談会」でも話し合われたことがありますでの、その記録を記します。
*「(野村沙知代・鳩山幸)夫人」
【2001年9月・放送分科会】
経歴詐称問題で「野村沙知代夫人」という表現が出て来た。つまり「野村沙知代」氏の肩書きとして「野村克也阪神タイガース監督の夫人」というものが付いてる、ということ。「稲垣吾郎メンバー」と同じ考え方か。
【2009年10月・関西地区用語懇談会】
「幸夫人」という表現は、正しくは「鳩山総理夫人」ではないのか?(MBS)
→野村克也・前楽天監督の夫人を「沙知代夫人」と呼ぶのと同じで、ある意味「固有名詞」なのではないか?もちろん、正しくは、「鳩山総理夫人の幸さん」であろうが、「(鳩山)幸(・総理)夫人」というように( )が省略されて「幸夫人」となっていると考えられなくもない。
【2009年12月・放送分科会】
「幸夫人」について。 「正しくは『鳩山由紀夫夫人幸さん』ではないか」という意見が弊社番組審議委員から寄せられました。各社の見解を教えてください。(毎日放送・鶴本委員)
→・鳩山政権誕生以降、「幸夫人」(みゆきふじん)を情報番組を中心に連発している。「鳩山夫人」や「鳩山由紀夫夫人」ならわかるが、あえて言うなら「幸さん」(みゆきさん)ではないか。
・「真珠夫人」などが出てから「夫人」の使い方が変わったのかも知れない。別な人物だが、「真紀子氏」というのもよく出てくる。「氏」は名字。氏なのだから「田中真紀子氏」ならわかるが、「真紀子氏」がよく使われている。
・言葉は変わるもので、誤用がいつのまにか正しくなることもあるが、放送が、まして全国ネットの番組が率先して、毎日連発しているのはどう考えてもおかしい。「幸夫人」はやめてほしい。
→「その昔『デビ夫人』がおかしいと思った。『スカルノ夫人』ではないのか?」(フジテレビ)→「あれは『第○夫人』というふうにたくさんいる。本妻の『スカルノ夫人』は一人だけなので、仕方がないのでは・・・」の声あり→いまや「デビ夫人」は、「叶姉妹」のような「芸名」では?という声も。
→「目くじらたてなくても・・・」(フジテレビ)
→「(野村前監督夫人の)『沙知代夫人』もあった」(NHK)
→「ファーストレディーに個性がある場合(キャラが立っている)は、ファーストネームで呼ばれることがある。クリントン大統領夫人時代にはヒラリー・クリントンは『ヒラリー夫人』と呼ばれていたし、現在のオバマ大統領夫人も『ミシェル夫人』と呼ばれている。『イメルダ夫人』もあった。『○○夫人』がおかしい、と言う方がおかしいと思う」(テレビ朝日)
→「ニュース原稿では『妻の幸さん』だが、『首相動向』では『幸夫人』も出てくる。オバマ大統領の『ミシェル夫人』も使っている」(共同通信)
ということで、「夫人」に、こうやってスポットライトが当たるのは「8年ぶり」ということですか。
昔(1998年7月)、田中真紀子さんが、自民党総裁選に立候補した
「小渕恵三、梶山静六、小泉純一郎」
の3人の候補を、
「凡人・軍人・変人」
と評したことがありますが(懐かしい!!)、その伝で言うと、ちょっと「天然」のところがあるという昭恵さんは、
「私人、変人、夫人」
ですかね。