新・ことば事情
6279「決勝進出でも王手?」
WBCが盛り上がっています。3月15日の「ミヤネ屋」でも少しご紹介しました。きょうのイスラエル戦に勝てば、全勝で文句なく、
「決勝ラウンド進出」
という状況。そこでテロップには、
「決勝ラウンドに王手」
と出ていました。これをチェックしていて、「ちょっと待てよ」と。
以前(2015年10月)、関西地区の新聞用語懇談会で、同じような問題について話し合ったことがあったからです。その時は、こんな議論が行われました。
★決勝進出でも『王手』?
野球U-18で、日本はカナダに快勝。「韓国戦に勝てば、決勝進出」で、「日本 決勝に王手 カナダ下す」、「日本、決勝へ王手 カナダ破る」の見出しがつきました。「王手」の辞書的な意味が、「もう一歩で物事が成就する段階のたとえ」であるとすると、この場合の使い方は? 翌日の紙面では、「日本バスケ 五輪に王手」を見出しに取ったところがありました。「勝てば3大会ぶりの五輪出場が決まる」試合ならば、「王手」でも許容でしょうか?
(朝日新聞)許容。
(共同通信)部内では賛否は「3:3」。スポーツ面は「勢い」があればいいのではないか?個人的には広げたくない。
(日刊スポーツ)個人的には「優勝にあと1勝」とする。「五輪に王手」という紙面は作ったことがある。
(ABC)部内では両方の意見があった。実況アナは「違和感がある」と。「王手」「逆王手」は、なるべく使わないようにしている。
(ytv)「決勝進出」が目標であるならば、「王手」も可。「勝てば3大会ぶりの五輪出場が決まる」試合ならば、「王手」でも許容。ところで、似たような「疑似表現」で、ラグビー日本代表が1次リーグで3勝を上げたものの決勝トーナメントに進出できずに帰国した様子を「凱旋(がいせん)」と表現したが、これは「許容」だろうか?
(産経新聞)スポーツ面では「凱旋」は使う。また音楽コンクールなどで、「優勝(1位)」でなく、2位、3位入賞でも使うことがある。本来の意味の「注意喚起」はするが。
(毎日新聞)勝ち負けに関係なく使っている。華やかでいいのでは?
(読売新聞)「見出し」ではOKでは?
(神戸新聞)「デイリースポーツ」に10年間出向していたこともあるが、スポーツ紙は基準が緩め。「見出し」は雰囲気が出るのであれば、それで誤解を生まないのであれば使う。本文には使わない。
(KTV)「凱旋公演」など、海外公演帰りのタレント・ミュージシャンに使うこともある。「王手」は安売りしたくない。
(MBS)「逆王手」を「日刊スポーツ」で最近見たが?
(毎日新聞)「逆王手」は、「王手」が解けなければダメ。「3勝すれば優勝」のケースで「1勝2敗」から「2勝2敗」に並んでも、相手の「王手」は解けていないので、「逆王手」は使わない。
(読売新聞)「巨人が逆王手」は使ったことがある。最近は、もし出て来たら「直す」(「逆王手」は使わない)方向にある。
(日刊スポーツ)「矢野で逆王手」「ハム逆王手」も、もうとがめられない。バンバン出て来る。議論になったことすらない。
(MBS)「逆王手」の誤用は、日本棋院からクレームがくるので、絶対使わない。
(中国新聞)広島カープが、あと1勝でCS(クライマックス・シリーズ)に行けるというときに「CSへ王手」と「王手」を使ったが、ファン心理としてはピッタリくる表現だった。
話が「逆王手」「や「凱旋」にまで広がりましたが、「使ってもOK」とする社が、結構多かったような気がしました。
今回、「ミヤネ屋」でも、そのまま通して、放送に出ました。
なお、このイスラエル戦を中継していたテレビ朝日の、画面右上のサイドスーパーは、
「侍ジャパン勝てば準決勝進出」
でした。(その下の1行のスーパーは「イスラエルと運命の大一番」。)