新・ことば事情
6265「人種のるつぼ」
後輩のプロデューサーから質問メールが届きました。
「『人種のるつぼ』という表現に関して、放送では使わない方がいいと、昔、聞いたような記憶があるのですが、実際どうなのでしょうか?ちなみに読売テレビの『放送用語ガイドライン』には載っておりません。古臭い紋切り型の表現で個人的には好きではないため、自分が原稿を書く際にはまず使わないのですが、ディレクターや作家に『ダメ』という根拠があるのなら理由を持っておきたいと思っております。お教え願えれば幸いです。よろしくお願いいたします。」
なるほど、なるほど。ちょっと気になりますよね。
別に差別的な表現だとは思いませんが、たしか「別の表現」があったはず。
一応いろいろ調べてみて、こんな返事をメールしました。
「『人種のるつぼ』は、特に『使ってはいけない』ということは『ない』ようですね。
国語辞典で『るつぼ』を引くと、その用例に『人種のるつぼ』が出て来ます。手元にある国語辞典では、
『精選版日本国語大辞典』『広辞苑』『三省堂国語辞典』『デジタル大辞泉』『明鏡国語辞典』『新明解国語辞典』『岩波国語辞典』『現代国語例解辞典』
に、『人種のるつぼ』が用例として載っています。
ただ、ネットで調べると『るつぼ』は、
『全部を溶かして一つにする』
のですが、例えば、アメリカのニューヨークという都市は、
『人種を溶かして一つにするわけではない』
ので『いろんな人種の人がいる』という意味で、最近は『サラダボウル』を使って、
『人種のサラダボウル』
という表現のほうが使われる傾向だとのこと。ただし、『国語辞典』の『サラダボウル』の用例になるところまでにはなっていないようです。
その意味では、『人種のサラダボウル』のほうが、手垢の付いていない新しい比喩的表現と言えるでしょう。
グーグル検索(1月25日)では、
『人種のるつぼ』 =13万1000件
『人種のサラダボウル』= 1万3300件
と、やはり従来の『るつぼ』のほうが、『サラダボウル』の『10倍』、使われているようです。」
ということで、放送ではそのまま「人種のるつぼ」を使っていたようでした。