新・読書日記 2017_014
『冲方丁のこち留~こちら渋谷警察署留置場』(冲方丁、集英社インターナショナル:2016、8、31第1刷・2016、10、10第2刷)
著者の名前「冲方丁」は、「うぶかた・とう」と読む。難しい名前ですね。
「こち留(とめ)~こちら渋谷警察署留置場」
というタイトルはもちろん、昨年、40年にわたる連載が終了した漫画、
「こち亀~こちら葛飾区亀有公園前派出所」
のパロディーだろう。「こち亀」では主人公は、
「警察官」
だが、「こち留」での主人公は、
「無実の罪で留置された著者=冲方丁」
である。大変な経験を「笑い」で吹き飛ばそうという気持ちが伝わってくる。
以前、日経新聞のコラムを読んで「おもしろいなあ」と注目をしていた著者は、その後『天地明察』で「本屋大賞」を取ったり、映画化されたりして売れっ子作家となった。
それがある日突然(2015年の8月に)、「妻に対するDV容疑」で逮捕されたニュースがマスコミを賑わしたときには「え?本当に?」と思った。
その後、何だか、うやむやになるような感じで釈放されたという記事を読んでも、著者に対する「グレーなイメージ」は拭えないままでいた。一体何があったのか?知りたいと思っていたら、この本を見つけたので、即購入。
なかなか経験できない「留置場(や、刑務所)生活」についての記録は、例えば、佐藤優の『獄中記』などがあるが、より身近な感じでその生活の細かいところなどが分かった気がした。よくこれだけ細々と覚えていられたものだ。さすが作家!
警察が、また検察が、そのメンツにかけて、
「逮捕した以上、何が何でも送検・起訴・有罪にしてやる」
と誇りを持って。「正義」の名の下に思っている様子、そのためには「冤罪」も起こりうる可能性を十分に感じ、今、国会論戦に上っている「共謀罪」等の"コワサ"を彷彿させるものにもなっている。
しかし、読み終わって、やはり疑問が残る。
なぜ、彼の妻は、夫を訴えたのか?
もし「虚偽」の訴えであるならば、なぜ著者は「妻の側」を訴えることをしないのか?
その一点だけは、謎のままで残ってしまう。それが明らかにされることは、ないのだろうか?