新・ことば事情
6245「おろしてくださいますか」
1月の中旬、生まれて初めて「ノロウイルス」にやられました。その日はなんだか胃がもたれる感じがしていたのですが、帰宅して夕食後も胃がすごくもたれ、夜中に「オエーッ」と2度、戻してしまいました。幸い、トイレに駆け込んで便器に直接吐いたので、被害は最小限に食い止めましたが。
2度吐いた翌朝、さっそく病院に行き病状を話すと、
「うーん、『ノロ』かもしれませんね。じゃあ、調べて見ますか。普通は『検便』で調べるのですが・・・今、出ますか?」
とお医者さんが。
「きのう全部吐いてしまって、その後もちろん何も食べてないので、おなかの中は空っぽで、何も出ません」
というと、そのお医者さんは、ちょっと困ったように看護師さんと視線を合わせた後、
「そうですか・・・じゃあ、仕方ないな。」
と言います。何が仕方がないのでしょうか?
「向こうの廊下の端のベンチで、座って待っていてください」
と言われたので、20分ばかりも待っていたでしょうか?看護師長さんと思しきベテランの女性看護師さんがやって来ました。そして、
「じゃあ、ついて来てください」
と言うと、さらに廊下の奥の方へ。なんだか電気も点いていなくて、いくつか診察室もあるようですが、人気(ひとけ)はありません。その一つの部屋の扉を開けると、
「ああ、ここがいいわ。こちらに入ってください。」
従うと、電気を点けないまま、薄暗闇の中にぼんやりと何かが見えます。
「そこの寝台の上に荷物を置いてください」
おとなしく従うと、
「こんなの、初めてでしょ。」
と怪しい雰囲気。でも、何をするかは、おおよそ想像はついています。
「いえ、一度あります」
と答えると、
「ええ!そうなんですか?」
と大層、驚いた様子。
「昔インドに行ったときに下痢をして、帰りに成田空港の検疫のところで、同じようなゲッソリとした顔の若者が集められて、係の方が『いいですか、このガラスの棒を肛門から入れてもらって、その後ガラス棒をこの試験管に入れて渡してください』と言われたことがあって・・・」
緊張のため、「牛歩戦術」のように、つい饒舌になってしまう私。その辺まで聴き終えた看護師さん、落ち着いた顔でおもむろに、
「じゃ、いいですか。
「・・・はい・・・」
「おろしてくださいますか」
そうか、
「脱いでください」
だと、やはり患者さんに抵抗があるから、ここは、
「おろしてください」
と言うのか。確かにそのほうが、自然におろせる感じがする!
スルスルスルッ、パサッ。
「あ、なんでしたら、その寝台に手をついて後ろ向きになってもらって・・・そうですね」
と言うと、私が後ろ向きになって手を付いたかどうかのタイミングでいきなり、
「ブスッ・・・ズンズンズン」
と何かが入って来ました。
「フンッ」
と思わず踏ん張る私。いっときの我慢です。
「はい、OKです。じゃあ、15分後ぐらいで検査結果が出ますからね。お疲れ様でした。」
ハァーッ、緊張した・・・というほどでもなかったか。
おろしたものを、元に戻しました。
15分後。
先ほどよりもずっと若い女性看護師さんがやってきて、
「道浦さん、診察します。ついて来てください」
と、最初に診察した先生の所へ。
「出ました。『ノロ』ですね。」
「え!・・・出ましたか」
結局それから2日間は、スポーツドリンクだけを飲む生活。その後も1日1食「おかゆ」か「うどん」を食べる日々が続き、5日間で4キロ痩せました。でもこれが、すぐに元に戻っちゃうんですけどね。
いろいろ、「患者さんのことを考えた言い方」があるものだなあと感心したのでした。
皆さんも「ノロウイルス」には、十分気を付けてくださいね。うがい・手洗い励行!!