新・ことば事情
6232「ファザーか?ファーザーか?」
読売テレビの後輩・清水健アナウンサー(40=SMAP・香取慎吾と同じ学年か・・・)が、2017年1月27日の放送をもって番組を降板、退社することになったと発表しました。
去年2月に乳がんで29歳の若さで亡くした奥さん。またそういった人を出さないために、著書の印税などで設立した「乳がんで亡くなる人をなくすための財団」の活動と、2歳になる息子さんの育児に専念するためだそうです。
そのことを報じた12月26日のニュースを見ていたら、
「シングルファザー」
という表記がありました。(「スポニチ」のネット記事)それを見て、
「あれ?『シングルファーザー』と伸ばすのではないか?」
と思ったのです。
グーグル検索では(12月27日)
「シングルファザー」 =28万9000件
「シングルファーザー」=25万0000件
と、ほぼ同数ですが、伸ばさない「ファザー」のほうが、わずかに多かったです。
単体の「ファザー」「ファーザー」は、
「ファザー」 =102万件
「ファーザー」=254万件
で、従来の(?)「ファーザー」と伸ばすほうが「2、5倍」使われていました。
「京都新聞」(電子版2016年3月31日)は「シングルファーザー」と伸ばしていました。「デイリースポーツ」(電子版2016年12月26日)も「シングルファーザー」と伸ばしていました。
国語辞典を引くと、『広辞苑』『明鏡国語辞典』『新明解国語辞典』『精選版日本国語大辞典』『デジタル大字泉』は、「見出し語」は伸ばす「ファーザー」しかありませんでした。
『岩波国語辞典』『旺文社標準国語辞典』『新潮現代国語辞典』『新選国語辞典』は、「ファーザー」「ファザー」共に載っていませんでした。「英語」という扱いなんでしょうか?
『三省堂国語辞典』を引くと「見出し語」は「ファーザー」しか載っていましたが、その語釈の中に「ファザー」も記されていました!さすが『三国』!また、今年出たばかりの『現代国語例解辞典』も、「見出し語」は「ファーザー」しかありませんが、「こういう風にも書く」という表記で「ファザー」が記されています。
同じく今年出た『NHK日本語発音アクセント新辞典』には「ファザー」「ファーザー」共に載っていませんでしたが、
「ファザコン」
は「見出し語」として載っていて、その意味説明に
(俗語。ファーザーコンプレックスの略)
と書かれていたので、NHK(放送文化研究所)の分析では、
「ファーザー」
と伸ばす方をメインに考えているのではないかな?と思いました。
ここまでを踏まえて分析すると、元々「父親」を意味する「father」は、ここ数十年は、
「ファーザー」
と伸ばして発音・表記して来たものが、最近は短く、
「ファザー」
となって来ているのではないか?そしてそれは「対語」である、
「マザー」
が「マーザー」でなくて「マザー」と短い発音であること揃えているのではないか?ということです。原語(英語)の発音に近付けづけているのか?
ただ、「ファーザー」しか見出しにしていなかった『新潮現代国語辞典』なのですが、引用された用例は、
「ぢゃ、君にそれだけの信念を与へた君のファザアの議論を聞かせてくれ給へ」
という谷崎潤一郎の『鮫人(こうじん)』(1920年=大正9年)からの記述で、ここでは伸ばさない形の、
「ファザア」
が使われています。これはということは、100年ほど前の大正時代には「ファザア(ファザー)」と「ファ」を伸ばさない形が一般的で、その後、昭和の時代には伸ばすようになり、また平成になってからは、だんだん伸ばさなくなってきているのではないか?ということです。でもそれなら今後は、「er」で終わる語尾の「ザー」も伸ばさなくなって、
「ファザ」
になるかもしれませんね。
なお、よく芸能人が選ばれて話題になる、
「ベストファーザー賞」
は、伸ばす「ファーザー」です。