新・読書日記 2016_174
『テロリストは日本の「何」を見ているのか~無限テロリズムと日本人』(伊勢﨑賢治、幻冬舎新書:2016、10、30)
著者は1957年生まれで、現在は東京外国語大学教授。国連PKO幹部として東ティモール暫定行政府の県知事や、アフガニスタンでは日本政府特別代表として「武装解除」にあたったということで、世界の「紛争の現場」(特にイスラム教の国の)で、実際に紛争の実態を目で見て、肌で感じ、実体験として知っている先生である。「理屈」だけでは解決しない「現場」を経験してきているのは、大いなる強みだ。
そういった現場の目から見て、世界のテロリストたちが「日本」をどのように見ているのかを読み解いていく。この場合の「日本」というのは「安倍政権の日本」ですね。
まず、日本は「原子力発電所」という、狙われたら核爆弾になってしまう物を50か所以上も抱えていること自体が「無防備」であると説く。やっぱりそうか。しかも別にミサイルで狙わなくても、使用済み核燃料を冷やす「冷却装置の電源」を壊せば、それでおしまいなのだ、と。その通り。対策をきちんと取ってもらいたい。(もう取ってると思うけど、より厳重に。)
また、「憲法9条下」でも、既に日本は「参戦」したことがある。「後方支援」だ。これは明らかな「参戦」で、今や一番狙われやすい危険な所であると。
そして日本は、アメリカによって広島・長崎に原爆を落とされた「被爆国」であり、「憲法9条」で「攻撃できない」ということはよく知られているので、アメリカの手下として従っていても「本意ではない」と、イスラム教の国々は受け取ってくれているという。これをうまく利用しない手は無い、と著者は主張する。
紛争地域で一番大切なのは、現地社会との「意思疎通」、つまり「通訳」が大事だ。しかも最も大切なのは、撤退するときに、その雇った通訳の仕事が終っても「お疲れ様」と現地に残すのではなく、一緒に連れて帰る保証をすることだというのだ。そうでないとこの通訳は殺されてしまうのだという。われわれが考えているようなレベルではない、現地の実情を知った人の知恵が、いかに大切であるかが、この一冊でよく分かった。