「平成ことば事情2314 逆王手」の続報です。
今年(2016年)の日本シリーズは、セ・パ共にペナントレースで1位だった北海道日本ハムファイターズと広島東洋カープの対戦となり、先に広島が地元で2勝した後に、日本ハムが4連勝して日本一に輝きました。
その日ハムが優勝を決めた「第6戦」は、日本テレビが中継していました。その際、画面の右上にずっと出ていたサイドスーパーが、
「日本ハム日本一か 広島逆王手か」
というように「逆王手」を使っていました。
「平成ことば事情2314 逆王手」を書いたのは追記も含めて「2005年~2008年」で、もう10年ほど経っていますが、その間に何度か「新聞用語懇談会」でも「逆王手」は議題に上りましたので、その様子をここに残しておきます。
*【2011年2月(放送分科会)】
「逆王手」という表現を使うか?(by MBS)
→(日本テレビ)「許容」ではないが「実際は使っているような感じ」。3勝3敗で追いついた方の「勢い」を表現して「逆王手」とするのではないか。
(フジテレビ)使っている。「許容しちゃっている。よく使われる」(Mキャスター談)
(ABC)大手を振って使っている。
(MBS)使っていない。
*【2012年10月(関西地区用語懇談会)】
「逆王手」という表現は、本来の将棋の意味とは違うが、野球のクライマックスシリーズのようにスポーツで使ってよいか?(産経新聞)
→「『逆王手』は使っている」(読売新聞)
「毎年、使うかどうかでもめている。『大辞林』にも載っている。朝日新聞のデータベースでは1993年に初めて使われた。『将棋倒し』の比喩表現は、明石の歩道橋事故の際には将棋連盟から『使わないで』とクレームがついたが、『逆王手』については『間違った使い方をしないで』と言ってきたことはない」(朝日新聞)
【2015年10月(関西地区用語懇談会)】
「決勝進出でも『王手』?」→野球U-18で、日本はカナダに快勝。「韓国戦に勝てば、決勝進出」で、「日本 決勝に王手 カナダ下す」、「日本、決勝へ王手 カナダ破る」の見出しがつきました。「王手」の辞書的な意味が、「もう一歩で物事が成就する段階のたとえ」であるとすると、この場合の使い方は? 翌日の紙面では、「日本バスケ 五輪に王手」を見出しに取ったところがありました。「勝てば3大会ぶりの五輪出場が決まる」試合ならば、「王手」でも許容でしょうか?
(朝日新聞)許容。
(共同通信)部内では賛否は「3:3」。スポーツ面は「勢い」があればいいのではないか?個人的には広げたくない。
(日刊スポーツ)個人的には「優勝にあと1勝」とする。「五輪に王手」という紙面は作ったことがある。
(ABC)アナウンス部内では、両方の意見があった。実況アナは「違和感がある」と。「王手」「逆王手」は、なるべく使わないようにしている。
(ytv)「決勝進出」が目標であるならば、「王手」も可。「勝てば3大会ぶりの五輪出場が決まる」試合ならば、「王手」でも許容。ところで、似たような「疑似表現」で、ラグビー日本代表が1次リーグで3勝を上げたものの決勝トーナメントに進出できずに帰国した様子を「凱旋(がいせん)」と表現したが、これは「許容」だろうか?
(産経新聞)スポーツ面では「凱旋」は使う。また音楽コンクールなどで、「優勝(1位)」でなく、2位、3位入賞でも使うことがある。本来の意味の「注意喚起」はするが。
(毎日新聞)勝ち負けに関係なく使っている。華やかでいいのでは?
(読売新聞)「見出し」ではOKでは?
(神戸新聞)「デイリースポーツ」に10年間出向していたこともあるが、スポーツ紙は基準が緩め。「見出し」は雰囲気が出るのであれば、それで誤解を生まないのであれば使う。本文には使わない。
(KTV)「凱旋公演」など、海外公演帰りのタレント・ミュージシャンに使うこともある。「王手」は安売りしたくない。
(MBS)「逆王手」を「日刊スポーツ」で最近見たが?
(毎日新聞)「逆王手」は、「王手」が解けなければダメ。「3勝すれば優勝」のケースで「1勝2敗」から「2勝2敗」に並んでも、相手の「王手」は解けていないので、「逆王手」は使わない。
(読売新聞)「巨人が逆王手」は使ったことがある。最近は、もし出て来たら「直す」(「逆王手」は使わない)方向にある。
(日刊スポーツ)「矢野で逆王手」「ハム逆王手」も、もうとがめられない。バンバン出て来る。議論になったことすらない。
(MBS)「逆王手」の誤用は、日本将棋連盟からクレームがくるので絶対使わない。
(中国新聞)広島カープが、あと1勝でCS(クライマックス・シリーズ)に行けるというときに「CSへ王手」と「王手」を使ったが、ファン心理としてはピッタリくる表現だった。
というようなことで、マスコミの中でも「使う」か「使わない」はで意見が揺れている言葉ではあります。
(2016、11、2)