新・読書日記 2016_110
『陸王』(池井戸潤、集英社:2016、7、10)
このタイトルだけでは「一体、何の小説?」と思うでしょ。私は思いました。
本屋さんで池井戸潤の新しい小説だというので手に取って、立ち読みしていたら、なんと、「足袋のメーカーが、新規事業としてランニングシューズを作る話」
というではないですか!あ、そういえばこの前の用語懇談会で、TBSの委員の方から、
「足袋は『穿く』か?『履く』か?」
という議題が出ていた。これだとその答えが出て来るかも!と思って即購入。あんまりそういう理由で買う人はいないかも。(そういえば池井戸潤原作の『下町ロケット』『半沢直樹』シリーズは、TBSでドラマ化されているな)その答えは何と最初のほう、第1章の1ページ目(11ページ)に出て来ました。
「行田は足袋の町だった。日本人にとって足袋が日常の履き物であった頃」
少なくとも池井戸潤は「足袋」は「履き物」という認識であることが、わかっちゃいました!埼玉の行田が、そういう町だったとは知りませんでした。これも勉強になった。
そのほか「トンボ」の別名が「勝ち虫」と言うとか(54ページ)、「かねて御社に」と、「かねてから」「かねてより」は重複なので使わずに、正しく「かねて」を使っているとか(73ページ)、でも比較的新しい言葉「真逆」を使っている(79ページ・330ページ)とか、「ソールはシューズのキモです」と、これも新しい使用法の「キモ」を使っているとか(106ページ)、「結果を出していけば、富島さんもわかってくれるんじゃないですか」と「結果を出す」を使っているとか(128ページ)、5月末に18年ぶりに出た「NHKアクセント新辞典」で採用された、「ジャージ」という語尾を伸ばさない表現(これまでは「ジャージー」)を「ジャージを羽織って」と使っている(251ページ・338ページ)とか、同じく「NHKアクセント新辞典」で採用された語尾が伸びる「パーカー」(これまでは「パーカ」)を「パーカー付きジャケットを着た、白髪交じりの男だった」(264ページ)など、表記上も表現上も"注目のポイント"満載!
また『陸王』というタイトルは、池井戸の過去の作品『民王』(たみおう)にも通じるし、何より池井戸さんの母校・慶應義塾大学の第一応援歌『若き血』の中に、
「陸の王者・慶應」
という歌詞も出て来るから、そこから取ったのかな?と思ってツイッターに書いたら、なんと池井戸事務所から、
「足袋メーカーの商品名を調べたところ、『○王』というネーミングが多かったので、名付けたのです」
という返事が!そうだったんですか!ご教示、ありがとうございました!!