新・読書日記 2016_109
『戦後政治を終わらせる~永続敗戦の、その先へ』(白井聡、NHK出版新書:2016、4、10)
「永続敗戦論」で注目を浴びた著者の新著。なんとなく、わかったような気になった「永続敗戦論」だったが、この本を読むことで、「そうか、そうだったのか!」と理解が進んだ。
本書の目的は「完全に行き詰まりに陥った戦後日本政治を乗り越えるための指針を導き出すこと」。その意味で「真の戦後レジームからの脱却」だという。
「敗戦」を「終戦」と言い換えたのは「敗戦の否認」であり、その意識に基づいた政治体制(レジーム)が、とっくに耐用年数を超えたのに続いていると。「敗戦の否認」という政治体制が有効だったのは「冷戦の終了」まで。それから20年以上もたつのに、新しいレジームを作り出せないまま行き詰まっていると分析。そして「敗戦」を認めることは、我々が「被害者」であると同時に「加害者」であったことも引き受けなければならないのだが、その覚悟が無い。
「対米従属」の政治姿勢を続けている中で、その「指令書」が「年次改革要望書」から「構造改革協議」「金融ビッグバン」「金融資本の移動の自由化」、そして「TPP」へと変わってきているのだという。ああ、どれも過去20~30年ぐらいに耳にしてきた「日本の進むべき道」として示されたものだよなと、改めて。宮沢内閣の頃、1992~93年ぐらいか、ブッシュ大統領(父)が示した「グローバル・スタンダード」がブームとなったが、たしかに「一国主義」ではなく「グローバル化」するのは、良いことだと思ったが「ちょっと待てよ」と。これは本当の「グローバル化」ではなく、「アメリカン・スタンダードのグローバル化」、つまり「全世界のアメリカ化」なのではないのか?「マクドナルド」が世界中どこにでも出来たのと同じではないか?と気付いた。20年ほど経って「マクドナルド」の元気が無くなってきたぐらいに、今度は「スターバックス」が同じように「アメリカ化」を成し遂げているではないか。それは最初「カッコいい」ことだったが、現在ではあまりにもありふれてしまって「普通の風景」になってしまっている。「スナバ(コーヒー)」の鳥取県にも「スタバ」ができたんですよね。
共和党の大統領候補トランプ氏は、TPPに反対しているが、それはこれまでのアメリカを支配してきた層=ヒラリー・クリントン氏を支持してきた層への抵抗である。アメリカ国内も一枚岩ではないのだろう。ここ10年の「新自由主義」は、その10年前の「グローバル・スタンダード」の焼き直しである。同じことだ。
「ポスト55年体制」のために必要なことは3つ、「政治革命「社会革命」「精神革命」だという。具体的には、
*「政治革命」=「立憲主義擁護」の一点での野党共闘
*「社会革命」=「排除」へと向かった統治の原理を、再び「包摂」へと向かわせる
*「精神革命」=個々人が具体的な「抗議行動」を起こす
ということだという。
かなり煽っている一冊だが、「NHK出版」がよく出したなあと思った。