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『道浦TIME』

新・読書日記 2016_108

『21世紀の戦争論~昭和史から考える』(半藤一利・佐藤優、文春新書:2016、5、20)

「昭和史の大家」である半藤一利さんと、「インテリジェンスのプロ」佐藤優さんの対談によって、「昭和史」がリアルに浮かび上がってくる。「昭和史」、特に「昭和20年まで」の歴史は「戦争史」とイコールであった。そこから考えられる現在=21世紀の「戦争」とは?これを知ることによって「戦争」を未然に防ぐ。帯には「新しい戦争には、新しい昭和史が必要だ」と。

「731部隊」が現代によみがえって来ていること。「ノモンハン(事件)の歴史的意味を問い直せでは、「ノモンハン事件」と言われるが、「単なる国境紛争」ではなく、あれは「戦争」だった。しかも当時のソ連は、かなりこの「ノモンハン」を重要視していたのに対し、日本は軽く見ていた(現在も)という違いがあった。現在でもソ連(ロシア)は「ノモンハン」での大きな被害を覚えている。「戦争」は「どう終わらせるか」が難しい。「8月15日」は「終戦」ではない。「昭和陸海軍の官僚組織」は、「戦後日本」にも引き継がれ、「第二の敗戦」と言われる現代日本の敗因に繋がっている。

「国際法」が重要になって来た一つのきっかけには、昭和3年(1928年)に結ばれた「パリ不戦条約」に実質的な効果があった、佐藤は言う。「それまでは、手続きさえ踏めば、いつ戦争を仕掛けても構わなかったのが、戦争が違法となったことで、『平和を維持するため』という理屈を付けないと戦争できなくなった。これは画期的なこと」だっという。現代では、たとえ「先制攻撃」をしても「防衛のため」と、ぬけぬけと言うのはそのためか。「大量破壊兵器があるから」と言って攻撃して、戦争が終わると「やっぱり、なかった」というのは、まさにこのパターン。

現代の中国軍は「まず現実を作って、法律はそれに合わせて作ればいいと思っている」と。「西南の役」で西郷軍が、着火に手間取る旧式のエンフィールド銃だったのに対して、明治政府は大枚をはたいて、最新式のスナイドル銃、ヘンリー・マンチーニ銃、ガトリング砲、アームストロング砲までそろえた。そのわけは「南北戦争が終わったアメリカに、武器が山ほど余っていた」からだと。あれ?イラク戦争・アフガン戦争が終って余っている「オスプレイ」をたくさん買わされた、「どこかの国」と似てないか?

ワシントン軍縮条約破棄を昭和9年(1934年)12月に通告したが、その10月には「戦艦大和」建造案が提出された。「大和」は艦幅が「約40メートル」。ところがアメリカの選管は、パナマ運河を渡るために、「幅が32メートル」までに制限していたと。つまり「大和」では「パナマ運河」を通れないから、ワシントン・ニューヨーク(東海岸)まで攻め込むことは出来なかった。日本軍には、そういった「世界戦略は無かった」と。「巨艦主義」は、時代遅れだったのだ。

それを読んで「そうだったのか!」と、目からウロコが落ちた次の日(6月27日)の読売新聞に、こんな記事が載っていた。

「パナマ運河拡張 日本天然ガス輸入に恩恵」

パナマ運河の拡張工事が終り、6月26日から利用が始まったという記事だ。その記事には、地図と共に「タンカーの絵」が描かれていて、これまでのパナマ運河は、

「幅32メートル、長さ294メートル」(喫水12メートル)

の船しか通れなかったが、拡張が終ったパナマ運河では、

「幅49メートル、長さ366メートル」(喫水15メートル)

の船まで通れるようになり、これによって最大貨物量は何と「約3倍」になるという。

いや、それより注目は、これまでのパナマ運河は「幅32メートル」の船しか通れなかったと。戦後70年以上たっているが、それまで「戦艦大和が通れないパナマ運河」のままだったのだ!ああ、今なら「大和」もパナマ運河を通れるのだな、と。ということは、「運河」は「交通・運輸のため」だけでなく「国防のための武器」でもあるのだなと感じました。「万里の長城」のようなものね。

また「武器」と言えば、明治38年に作った「三八式歩兵銃」。日露戦争後、戦争をしなかったので、この古い銃と銃弾が山ほど余っていた。だから、それが無くなるまで、この銃と銃弾を使わなければならなかった、と。同じようなことは、ビジネスの場でもありそうですね・・・。

「三八式歩兵銃」は、殺傷能力が低い銃で、敵側には死者よりも負傷者がたくさん出る。米軍は負傷兵を見捨てない。だから、1人の負傷兵を後方へ送るために3~4人の兵が付くので戦力を弱めることができた、と。ところが、ソ連兵は負傷兵を見捨てるので、そういう効果は無かったとのこと。そのソ連兵が震え上がるのがイラン軍。「第三次世界大戦」は「どこで」始まるのか?について、佐藤は「サウジアラビア・イエメン戦争」の可能性が高いと指摘している。イエメンには「フーシ派」と呼ばれる「シーア派」がいて、シーア派大国の「イラン」が支援している。

2016年1月にサウジ政府が、シーア派の聖職者・ニムル師を処刑したことに怒ったイラン人が、サウジアラビア大使館を襲撃。それを受けたサウジアラビアは、イランと「国交断絶」している。「シーア派」の「イラン=イエメン」と、「スンニー派」の「サウジアラビア」「イスラム国」が同調すれば、中東が大混乱になる恐れがあると。

あれ?これ、他の本でも読んだぞ!いずれにせよ、ちょっと「サウジアラビア」と「イラン」の動きには、注目ですね。


star5

(2016、6、23読了)

2016年7月13日 19:28 | コメント (0)