新・ことば事情
6082「たった今」
6月30日のテレビ朝日のお昼のニュースを見ていたら、フィリピンのドゥテルテ新大統領が「就任式」に臨んでいるというニュースを、マニラから中継で伝えていました。それを伝えた記者が、こう話していました。
「ドゥテルテ新大統領は、この建物の裏にあるマラカニアン宮殿で、たった今、就任式に臨んでいます。」
そのコメントに違和感を覚えました。
「たった今」
という言葉の後には、
「完了形・過去形」
を伴うのではないでしょうか?つまり、
「たった今、就任式を終えました(終えたばかりです)」
もしくは、
「まさに今、就任式に臨んでいるところです」
とすべきなのではないでしょうか。
この「たった」を『精選版日本国語大辞典』で引いてみると、3番目の意味で、
「ごく近い過去であったという気持ちをそえる」
と書かれていました。用例は、鈴木三重吉の『桑の実(1913年)18』からで、ちょっとおもしろい使い方ですが、こんなものでした。
「たった こなひだのやうに 思ってゐたけれど」
「たった」の後に「こないだ」が来る使い方、この用例から100年余りが経った現在では、あまり耳に(目に)しない気がしますね。
『三省堂国語辞典』で「たった」を引くと、
「わずか。ただ」
しか載っていませんでしたが、「連語」として「たったいま」が載っていて、
「いましがた。ただいま」
と意味があり、用例は
「たったいま帰りました」
というものでした。「ただいま」と同じようには使えない場合もあるとは思いますが、やはり「過去形」か「完了形」を伴いますよね。
そんなことを書いていたら、「たった今」(7月1日の午後6時15分)、関西テレビの「関西ローカルニュース」で、
「宝塚市で女性が腹を刺された」
というニュースを伝えていました。そのニュース、直前に「全国のニュース」でも放送していたので、関西テレビにお男性アナウンサーは、
「たった今、お伝えしましたが」
と「たった今」と「過去形」を組み合わせて使っていました。
(追記)
先ほど(7月6日)、野々村竜太郎・元兵庫県議の判決公判で、
「懲役3年執行猶予4年」
の判決が出ました。「ミヤネ屋」では、河中・長谷川記者・藤村リポーター・三浦アナウンサーがリレー形式で、神戸地裁前から裁判の様子を中継でお伝えしましたが、その中で、長谷川記者がこう言いました。
「たった今、野々村被告の裁判が、始まっておりまして」
あ!これも、
「『たった今』+進行形」
だ!本来であれば、
「たった今、野々村被告の裁判が、始まりました」
と「完了形・過去形」で言わなくちゃいけないところでした。
いま、もしかするとこういう「たった今+進行形」が増えているのかもしれません。
(2016、7、6)