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『道浦TIME』

新・ことば事情

6045「観客は総立ちです!」

旧聞に属しますが、元NHKアナウンサーの西田善夫さんが2月27日に亡くなりました。80歳でした。1936年の2月生まれ、うちの父と同学年(1935年の学年)です。ということは、長嶋茂雄監督(1936年2月生まれ)と同い年ですね。

僕たちがアナウンサーになった頃の、NHKのスポーツアナウンサーの代表格のお一人でした。特にオリンピックでの実況経験は、当時は民放のアナウンサーには許されていなかった(と思う)ので、NHKの独壇場でした。(日本が不参加・出なかった1980年のモスクワ五輪は、たしかテレビ朝日が放送権を取っていたと思いますが。その後「ジャパンコンソーシアム方式」になり、民放のアナウンサーも実況を担当することができるようになりました。)

一番、私が印象に残っているのは、ちょうど4月から読売テレビへの入社が決まっていた、1984年2月に、当時のユーゴスラビアのサラエボで行われた冬季オリンピックの「開会式」の実況です。西田さんは開会式でこう実況したのです。

「地元・ユーゴスラビアが入場して参りました!観客席は総立ちです!」

しばらくの間があいて、思い出したかのような落ち着いた声で、こう付け加えました。

「もっとも、観客席の半分は、立ち見席です」

結構、これ、受けました。「ギャグ」だとしたら、おもしろいオチですが、まさかオリンピックの開会式で、そんなグギャグは、言わないだろう。だとすると、「総立ち」と言ってしまった後に、

「あ・・・今まで座っていた人が全部立ったなら『総立ち』だけど、観客席の半分は立見席だった!その情報を入れないと『ウソの情報』を伝えたことになる!」

と思って、その情報を付け加えて言ったのでしょう。それは「演出上」はマイナスですが、「報道」の立場からは「正しい行い」だと思います。その「正しい行い」が、

「巧まざるユーモア」

となって、「西田さんのお人柄」も表しているのではないかなと感じました。

それとBK(大阪放送局)に勤務されていた頃に、梅田の地下街の宝くじ売り場で私が宝くじを買おうとしていたら、後ろからヌーッと、縁の太いメガネをかけた大男が出て来たことがありました。それが西田アナウンサーでした。

「西田さんも、宝くじ買うんだ!」

と思いました。

直接お話ししたことはありませんでしたが、西田さんというと思い出すのは、この2つの出来事です。随分遅くなってしまいましたが、謹んで哀悼の意を捧げます。

(2016、5、30)

2016年6月 6日 18:23 | コメント (0)