新・読書日記 2016_073
『右の心臓』(佐野洋子、小学館文庫:2012、3、11)
タイトルは、幼い頃亡くなった著者のお兄さんのこと。彼は心臓が右にあり、中学生になるまでに亡くなった。昭和20年代、戦後すぐの時期の地方の生活の様子が、子どもの目線で描かれていて、小説なのかノンフィクションなのか、境界線が分からない。しかし、文体は、小学校低学年の著者のままだ。大人の文章ではない。かといって幼いままの文体でもない。これは、"大人である著者の魂があの頃に戻って書いている"としか思えないようなリアルさである。私が生まれる前の昭和20年代の話ではあるが、本当に私も同時代を過ごしたことがあるかのようなリアルな体感が得られる。「三丁目の夕日」的な「おとぎ話・ユートピアだった昔」ではなく、現実的な、どちらかというと「ディストピア」的な面もある。子どもの目から見た大人の汚さ、子どもの残酷さも描かれた一冊だ。
著者の佐野洋子さんが亡くなって6年たつが、その作品は今も生きている。輝いている。
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