新・ことば事情
6023「映画『人間の証明』のセリフのアクセント」
先日、角川映画に関するトークイベントに行った際に購入した『人間の証明』のDVDを見ました。映画公開当時は、テレビでコマーシャルをさんざん見たせいで、
「もう、見たつもり」
になっていましたが、実は見ていなかったのです。
見ての感想は、「おもしろかった」。
中で、セリフのアクセントで「お」と思ったものをメモしました。映画公開は、
「1977年10月」
ですから、「おおよそ40年前に使われていたアクセント」ですね。今聞くとちょっと「おや?」と思った聞き慣れない響きに感じたものです。
*三船敏郎
「タ/タ\キウル」(叩き売る)
これは「破れ傘刀舟」で萬屋錦之助さんが、
「おめえら、叩き斬ってやる」
と言っていた時の、
「タ/タ\キ キッテヤル」
と同じです。「叩き○○」という複合語のアクセントが、「コンパウンド」されずに「叩く(タ/タ\ク)」のアクセントを保っているという形です。
1998年に出た『NHK日本語発音アクセント辞典』を見ると(もうすぐ、新しいアクセント辞典が出ますが)、
「叩き合う」=タ/タキア\ウ
「叩き上げる」=タ/タキアゲ\ル、タ/タキアゲル(タ/タ\キアゲル)
「叩き起こす」=タ/タキオコ\ス、タ/タ\キオコス、タ/タキオコス
「叩き込む」=タ/タキコ\ム
「叩き壊す」=タ/タキコワ\ス、タ/タ\キコワス
「叩き出す」=タ/タキダ\ス、タ/タ\キダス
「叩き付ける」=タ/タキツケ\ル(タ/タ\キツケル)
「叩きのめす」=タ/タキノメ\ス、タ/タ\キノメス、タ/タキノメス
「叩き伏せる」=タ/タキフセ\ル、タ/タ\キフセル、タ/タキフセル
とあり、「コンパウンド型の、真ん中が長く高い中高アクセント」が1番目で、2番目に三船敏郎タイプの「第2音だけが高い中高アクセント」がきて、3番目に「平板アクセント」が来ているパターンが多いですね。
新しいアクセント辞典ではどうなっているか、注目ですね。
*鶴田浩二
「ア/メ\リカ」
「キ/ミョーニオモッ\タソーダ」(奇妙に思ったそうだ)=「キ\ミョー」ではなく「キ/ミョー」と「平板アクセント」。
「(警察関係が)30万台」(サ/ンジューマンダイ)=平板アクセント。
今は使わないアクセントですねえ。
三船敏郎さんも鶴田浩二さんも、もちろんもう、鬼籍に入ってらっしゃいます。
そして、
「マリファナ常習者」=「マリフアナ」ではなく。
今も表記は「マリフアナ」ですが、40年前でも、誰もそんな「表記通りのアクセント」では話していなかった、ということの一つの証拠として。